新潟県 公文書(電子データ)の消失事故について思う

 2023年4月21日夜、報道機関各社から、「新潟県公文書データ10万件超消失」に関するニュースが流れた。新潟新聞の報道によれば、21日、県総務部法務文書課が謝罪会見を開いている。これは、記録管理、文書管理に携わっているものからすると、2019年12月4日発生した「日本電子計算の自治体向けクラウドでのデータ消失事故」以来のショッキングな、しかし、やはり起きてしまったかという類の事故です。

 正確を期すため、各報道機関の記事に目を通すだけでなく、新潟県総務部法務文書課が4月21日に発表した内容も確認しました。その上で、一般的な記録管理の観点として、気になることを何点か上げさせて頂きます。各自治体のみならず民間企業におかれましても、参考になれば取り入れて頂ければと思います。

1.毎度の事故原因の矮小化

 自治体クラウドでの事故の場合も、事故発生直後は「その原因は、ストレージシステムのSSDのファームウェアのパッチである」と発表されました。その後、バックアップも取れてなかったことが判明しました。さらには、依頼している自治体とベンダーとの間で、バックアップに関する説明不足、無関心があったようで、総務省も関係方面に動いております。自治体クラウド事故の場合は、真因は、バックアップに関する無理解・無関心にありました。

 では、今回の場合は、事故が起きた直接の原因は、保守業者の作業なのでしょうが、決して、保守作業体制を整備する程度で済むものではない筈です。真の原因を理解するには、そのための能力を確保していく必要があります。まず、そこの見直しが必要ではありませんか。

2.記録の軽視傾向

 行政だけではなく、民間も含めて記録についての軽視傾向があるということは、記録管理に携わっているの間では、長く問題視されてきた。また、憂うべき事案は、皆さまもご存知のように多々発生しています。

 新潟県の発表内容、各報道機関の記事を読んでも記録を消失してしまったという重大性は感じられない。確かに外部からの攻撃や情報漏洩がつながっていないということは大事なポイントではあるが、「県民、事業者等に直ちに大きな影響があるものとは想定しておりません」は、記録を軽視する現れではないでしょうか。

 「バックアップは3日間の保存であり、削除されたことが判明した時点で3日を経過してしまっていた」などは、導入当初から軽視したことが伺われます。

 一方、米国や欧州は記録を大切にするお国柄であり、皆さんご存知の通り、米国の公文書館では立派な管理方法が取られています。北極圏のノルウェー領スバールバル諸島の山中にある炭鉱跡では、戦争や災害を避けて、500年、1000年単位で記録を保管するビジネスも始まっている。これは、記録を尊重する現れとも言えます。

 よく事故が起きると「想定外」という言葉が使われますが、今回の事故は、記録管理に携わるものから見れば全くの「想定内」であり、このような状態のまま、日本のデジタル化が進むことに危惧を抱きます。

3.記録管理の水準の向上の必要性

 日本の記録管理の第一人者で、ARMA(国際記録管理者協会)東京支部会長を歴任、現在ARMAinteranatinalのフェローであられる小谷允志氏は、常々、日本には記録管理の専門家がいないと嘆かれています。記録管理の専門家と言ってもそのカバー範囲は広く、いまやIT抜きでは成立しませんが、米国ではRIM(Records & Information Management )の分野が確立していて、これに係る方々も日々切磋琢磨しているとのことである。

 翻って日本を見た時に、長年の紙文書の管理の流れから、文書管理の主幹部署は総務だという会社や、法的な対応が必要だから法務部だという会社も多く、IT部門とうまく融合していない傾向がみられます。会社によっては、総務部門とIT部門を統合し融合を果たそうと試みている会社もあります。

 デジタル時代の記録管理にはITは不可欠ですが、記録管理の原理や業務も知る必要であり、逆に記録管理の原理だけでは不十分でITでの実現性や業務を知ることも必要になります。

 現在、文書情報マネージャー認定セミナーには、総務、IT部門、経理など様々な部署の方々が参加されております。当委員会は微力ではありますが、国内における文書管理、記録管理の水準アップに貢献できればと活動しております。

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