文書情報マネジメントに関する国際標準(ISO)

ISO(国際標準化機構)では、文書管理アプリーケーションを専門領域とする委員会「ISO/TC171」で、文書情報マネジメントの運用に関する国際規格の開発や維持の審議を行っています。JIIMA は、I SO/TC171 国内審議団体としてこれに参加しています。

専門委員会専門領域
TC171文書管理アプリケーション

TC171 には、 2つの分科委員会と1つのタスクフォースがあり、それぞれ次の活動を行っています。

分科委員会専門領域活動内容作業項目
TC171/SC1情報の品質、保存及び完全性文書情報マネジメントに関連した項目について、文書情報取り扱い基準の開発及び維持の審議を行っています。・文書管理-電子的に保存された情報
・電子文書の管理された共有
・デジタルオブジェクトストレージコンポーネント
TC171/SC2ドキュメント、ファイルフォーマット、EDMSシステム及び情報の真正性文書情報の電子コンテンツ形式に関する項目について、基準の開発及び維持の審議を行っています。・文書管理アプリケーション
 -PDF適用課題
 ーPDF/A(長期保存)
・PDF/E(エンジニアリング)
・PDF仕様
・PDF/UA(アクセシビリティ)
・ファイル形式のガイドライン
・EDMSガイドライン
・メタデータ
TC171/TF1マイクログラフィックス標準の維持

文書管理マネジメントの運用に関する標準

文書情報マネジメント運用技術

ISO TC171/SC1では、主に文書情報マネジメントの運用技術についての標準を開発しています。

文書情報を作成し、使用し、また組織間で流通、共有していく作業は、私たちの日常的な業務です。
この業務を安全に運用していくことを目的とした標準です。

特に、業務のデジタルトランスフォーメーションを実現していく際に、受領者に信頼される文書とは何か、発行者が受領者に不適切な利用をされないために何をすべきかなど信頼される文書流通運用の仕組みについての規格を主に提案、策定しています。

一例として次のような規格を提案・制定しています。

  • 文書流通時の取り扱いに関したポリシー
    文書を取り扱った業務を実施するとき、確認し、担保すべきポイントを提示
  • 文書流通時のポリシーをマーキング運用するICMHシステム
    文書を開示、提供していく場合に、文書の性格を整理して、提供の形式を判断するしくみの提示
文書管理マネジメントの運用に関する標準一覧

以下に、文書流通管理に関わる主要な規格を紹介します。

ISO 19475:文書取り扱いの作業要件
ISO 19475:2021
Document management Minimum requirements for the storage of documents

この標準は、文書の取り扱い時に必要となる作業について規定しています。
ISO19475では、受信/生成・処理・送信の作業を整理して、下の図のように定義をしています。
それぞれの作業において、何を確認し、何を担保することが必要であるかということを示しています。

受信者は、受信したら、アーカイブに保存する。そして、処理できるように受け入れする。
処理を開始したら 社内の共有ストレージなどを通して新たに情報を生成したり、処理したりする。処理した結果を判定して、決裁する。
決裁した結果をアーカイブに保存するとともに 送信できる形式に変換・割付して送信する。
送信した結果がどのように使用されているか、監視し、送信した文書の作成状況を監査する。
などのプロセスでの作業内容を規定しています。

ISO 19475:2021は、「JIS Z6020:2023 文書管理ー文書保存のための要求事項」としてJIS化されています。

リファレンス(参考資料):
文書を安全に取り扱うために私たちは何をしなければならないか -機関誌IM連載記事

ISO 4669-1:文書発信時の信頼性評価の枠組み
ISO 4669-1:2023
Document management — Information classification, marking and handling — Part 1: Requirements

この標準は、文書の信頼性に基づく分類と該当の分類での取り扱いの仕方や認証・認可を示す「マーキング」を運用することで、信頼のおける文書を運用していくことができるようになる枠組みを規定しています。

例えば、機密性の高い文書、機密性を持つ文書、組織内限定の文書、一般的に開示する文書、特に機密を含まない文書などのレベルに分け、組織内で使用する文書をそれらの枠に分類します。

その分類で必要になる、電子的な認証のしくみ、アクセス認可の仕組みなどを割り当てて、それらの文書を取り扱いします。
これにより、発行する文書の信頼性を保証したり、発行された後の文書の取り扱い状況を確認したりすることを可能にしたりする仕組みを提示しています。

本規格の具体的な適用技術や、運用技術については、ISO 4669-2として開発中です。

保存等の運用

ISO/TR 15801:2017
Document management — Electronically stored information — Recommendations for trustworthiness and reliability

  文書をスキャンして保存する際の運用方式について、「JIS Z 6016:2015紙文書及びマイクロフィルム文書の電子化プロセス」を参考に開発された規格です。

この標準は、英国規格「BS 10008-1:2020 Evidential weight and legal admissibility of electronically stored information (ESI) – Specification」として、スキャン文書のみならず、電子情報の作成・保存(証拠確保)の方式として拡張されています。

ISO 14641:2018
Electronic document management — Design and operation of an information system for the preservation of electronic documents — Specifications

この標準は、文書を長期的に保存維持していくための仕組みや運用方式について規定されています。
保存する際の、電子署名やタイムスタンプなどの証拠確保方法についての規定があります。

ISO 18829:2017
Document management — Assessing ECM/EDRM implementations — Trustw
orthiness

この標準は、ECMやEDMSを開発する際に必要となる安全性に係る考え方について整理した規定になっています。
ECM/EDMSを構築する際に、安全確保するための機能選択する際に使用します。

ISO/TR 22957:2018
Document management -- Analysis, selection and implementation of enterprise content management (ECM) systems

この標準は、さまざまなエンタープライズ コンテンツ管理 (ECM)技術を計画、設計、実装する際に、組織が検討・実施する際の一連の手順とアクティビティに関するガイドラインを提供しています。

コンテンツ形式や保存媒体の取扱いに関する標準

文書情報の電子コンテンツの形式

文書情報を安心・安全に交換・流通させるためには、その文書やデータの形式を統一的に運用できるようにしなければなりません。
また、音声や画像、映像、文字、図面など多くの形式、形態のデータが存在していることから、それらを交換時のみならず、長期的に再生し、参照できるようにすることも求められています。

一例として、次のような規格を提案・策定しています。
• PDF(Portable Document Format)に関する規格
• PDFの拡張形式に関する規格
• 交換・保存に適したデータ形式の選択

ISO 32000 文書管理ーPDF

PDFは電子文書を表すためのデジタル形式であり、電子文書の視覚的な外観を保持するためメカニズムを提供しています。
PDFの仕様は、リファレンス仕様(規準となる仕様)とプロファイル仕様(サブセット、または派生仕様)とに大きく分けられます。

ISO 32000-1:2008
Document management —Portable document format Part 1: PDF 1.7

この標準は、ユーザーが電子文書を作成した環境や表示または印刷した環境に関係なく、電子文書を交換および表示できるようにするための、電子文書を表現するためのデジタル形式を規定しています。

ISO 32000-2:2020
Document management —Portable document format —Part 2: PDF 2.0

この標準は、ISO 32000-1に対して、XPM(Extreme Memory Profile)によるメタデータ付与、暗号化、電子署名(PAdES、長期署名)、リッチメディアが強化されています。

ISO 19005 文書管理 - 長期保存のための電子文書ファイル形式(PDF/A)
ISO 19005-1:2005
Document management — Electronic document file format for long-term preservation —Part 1: Use of PDF 1.4 (PDF/A-1)

この標準は、電子文書を長期にわたり保存するために必要なPDF1.4の使用方法を規定しています。

ISO 19005-2:2011
Document management — Electronic document file format for long-term preservation —Part 2: Use of ISO 32000-1(PDF/A-2)

この標準は、ISO 32000-1 として標準化された PDF 1.7 の使用を指定し、PDF/Aのコンテンツを許可することに加えて、ページベースの電子文書の静的な視覚表現を長期にわたって保存します。 PDF/A-2は、PDF/A-1に比べ、次の要素に対する禁止あるいは制約が緩和されています。
・タグ付きPDF(アクセシビリティを拡張するため)
・圧縮オブジェクトおよび外部参照ストリーム(ファイルサイズ削減のため)
・透明
・JPEG2000圧縮
・PDF/Aファイルの埋め込みまたは添付可能

ISO 19005-3:2012
Document management — Electronic document file format for long-term preservation —Part 3: Use of ISO 32000-1 with support for embedded files (PDF/A-3)

この標準は、ISO 32000-1 として標準化された PDF 1.7 の使用を指定し、他のあらゆるタイプのコンテンツを許可することに加えて、ページベースの電子文書の静的な視覚表現を長期にわたって保存します。 埋め込みファイルまたは添付ファイルとして含める必要があります。
PDF/A-3は、PDF/A-2に比べ、次の要素に対する禁止あるいは制約が緩和されています。
・あらゆるタイプのファイルを埋め込み

ISO 19005-4:2020
Document management — Electronic document file format for long-term preservation —Part 4: Use of ISO 32000-2(PDF/A-4)

この標準は、ISO 32000-2 として標準化された PDF (Portable Document Format) 2.0 の使用を指定します。
これにより、ページベースの電子文書の静的な視覚表現を長期間保存することができます。
PDF/A-3と同様に、他のあらゆるタイプのコンテンツを埋め込みファイルまたは添付ファイルとして含めることができます。

文書情報の保存媒体の運用方式

CDやDVD、BDディスクに代表される光メディアに文書を保存するための運用規準、マイクロフィルムの使用に関係する基準を策定しています。
• 光メディアに文書情報を保存する運用に関係する規格(ISO/TC171/SC2で対応中)
• マイクロフィルムを運用・保存するための規格(ISO/TC171 TF1で対応中)

文書情報を取り扱う機器の品質管理基準

スキャナなど文書情報を取り扱う機器の品質評価に用いる試験票板の仕様を規定しています。
電子帳簿保存法のスキャナ保存で使用するスキャナの品質を確認するためのテストチャートなどを策定しています。

スキャナ機器の品質評価に用いる試験票板の仕様
ISO 12653-3:2014
Electronic imaging — Test target for scanning of office documents —Part 3: Test target for use in lower resolution applications

この標準は、文書を最大300dpiでスキャンするシステムからの出力の品質を評価するための試験票板の仕様を規定しています。
この試験票板は、白黒、グレースケール、またはカラーのスキャンに適用可能です。

記録管理分野に関する国際標準

記録管理は、JIIMAが主体として策定している標準ではありませんが、文書情報マネジメントの一部を構成します。

ISO 15489-1:2016
Information and documentation — Records management — Part 1: Concepts and principles

この標準は、文書を生成した後、どのように安全に保存・維持するかを示した規定です。
「JIS X 0902-1:2019 情報及びドキュメンテーション-記録管理」としてJISが制定されています。

ISO 23081-1:2017
Information and documentation — Records management processes — Metadata for records — Part 1: Principles

この標準は、記録管理に使用されるメタデータを取り決める方法や基準が示されています。

ISO 16175-1:2020
Information and documentation — Processes and functional requirements for software for managing records — Part 1: Functional requirements and associated guidance for any applications that manage digital records

この標準は、様々なデジタル情報を集約して、保存管理していく場合に必要となる作業が規定されています。
一部の国では、ここで示されたエビデンスの集約方式を会計業務の基準としています。

文書情報マネジメントに関する国内標準(JIS)

・JIS Z 6020:2023

文書管理ー文書保存のための要求事項(ISO 19475:2021)

・JIS Z 6015:2022

文書情報マネジメント用語

・JIS Z 6016:2015

紙文書及びマイクロフィルム文書の電子化プロセス

・JIS Z 6017:2013

電子化文書の長期保存方法

・JIS Z 6018: 2021

文書管理アプリケーション-電子データのアーカイビング-コンピュータアウトプットマイクロフォーム(COM)/
コンピュータアウトプットレーザディスク(COLD)による長期保存方法(ISO 11506:2017)