南海トラフ巨大地震への備え 永年保存公文書、 歴史公文書はどうしますか?

▶はじめに

 南海トラフ巨大地震に関する中央防災会議が開かれ、 防災対策の方針「基本計画」が2025年7月1日、 11年ぶりに見直されました。
  今回の見直しでは、 死者数を約8割、 全壊・焼失する建物を約5割減らすという、 極めて野心的な目標が掲げられています。 しかし、 防災の焦点が「人命第一」であることは当然としても、 見落としてはならないのが行政の記録です。
  各自治体が保存している「永年保存公文書」や「歴史公文書」のほとんどは、 現在も紙文書のままです。 大規模地震や大津波が発生すれば、 火災の発生やライフラインの遮断も同時に生じます。 いくらスプリンクラーを備えていたとしても、 火災や水損を完全に防げるわけではありません。 仮に命が助かっても、 その地域の歴史や意思決定の証拠が丸ごと消失してしまう恐れがあるのです。

▶紙文書のままで本当に大丈夫?

 実際、 各地で災害後に「重要文書が焼失・水損してしまった」という事例が後を絶ちません。 多くの自治体では、 永年保存文書や歴史公文書が旧校舎や旧体育館、 あるいは倉庫の一角などに保存されているのが実情です。 これらの建物は耐震・耐火・防水性能の面で不安があり、 「全損」のリスクを常に抱えています。

▶今すぐすべては無理、でも「優先順位」をつければできる

 そのうえで、 優先文書から順次スキャンし、 災害に強い電子的なバックアップ体制を整備することで、 記録の消失リスクを着実に下げていくことができます。 電子化の対象は、 優先順位の高い文書から選び出し、 各自治体の「身の丈」にあった余力の範囲で、 段階的に進めていくことを推奨されます。 限られた資源でも取り組みの効果を早期に実感しやすく、 着実な成果につながることが、 この方法の大きな利点です。

 ▶「もしものとき」から「いまのうちに」へ

「いつか起こる」ではなく、 「いつ起きてもおかしくない」とされる南海トラフ巨大地震。 人命を守る備えと同様に、 記録を守る備えもまた、 私たちの未来に対する責任です。 「紙のままで大丈夫か?」 「この建物で本当に守れるのか?」 、そうした問いを 自治体の中で 今こそ本気で議論し直すときです。
 その議論には、 行政だけでなく、 住民と共同で進めていくことが重要です。

▶まとめ

 以上を踏まえて、本記事の要点を以下に整理いたします。

  • 永年保存公文書・歴史公文書は、 地域の「記憶」と「証拠」
  • 南海トラフ巨大地震での焼失・水損リスクが現実に
  • 旧施設や紙のままの保存は「全損」の可能性あり
  • 一度に全部やろうとせず、 優先度をつけてスキャンと電子化を段階的に実施
  • 防災は人命だけでなく、 「記録の継承」もまた重要