「何も起こっていない=大丈夫」ではない― その油断が、チャンスも安全も逃していないか? ―
▶はじめに
“今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫”――その考えが、企業の寿命を縮めるかもしれません。
目に見えるトラブルがない今こそ、見えないリスクと向き合う絶好の機会です。
現状何も問題は起こっていない。
これまでの今のやり方でやってきた。
だから大丈夫――そう思っていませんか?
でも、「何も起こっていない」ことこそが、実は“最大の問題”かもしれません。
それは、変化や改善のきっかけを見逃していることでもあるからです。

▶トラブルがない=最適な状態、とは限らない。
目立った不満もクレームもない。業務も滞りなく回っている。
だからこのままでいい――そう考えがちですが、その裏でこうした兆しはないでしょうか?
- 業務マニュアルが作成されていない。
- 業務マニュアルが更新されていない。
- 業務マニュアル通りには仕事をしていない。
- 特定の個人しか知らない業務がある。
- 受け取った文書が見つからず、先方に再発行してもらうことがある。
- 業務担当者から業務改善提案がない。
- 保存していた文書が見つからなくなることがある。
つまり、「問題が起こっていない」のではなく、「見えていない」か「気づかずにやり過ごしている」だけではないでしょうか?
▶ ヒヤリ・ハットは起こっていないか?
「何も起こっていない」ように見える状態は、見えないところで信用リスクや法的リスクが積み上がっている可能性があります。
一度信頼を失えば、それを取り戻すには年単位の時間と大きなコストを要します。
労働災害の分野でよく知られる「ハインリッヒの法則」では、こう言われています。
「1件の重大事故の背後には、29件の軽微な事故と300件のヒヤリ・ハットがある」
これは、大きな事故は突発的に起きるのではなく、小さな異常や違和感の蓄積の先にあるということです。
では、私たちの業務ではどうでしょうか?
- 送信ミスになりかけたメール
- 保存先が分からず何度も確認したファイル
- 非公式な運用で曖昧に成立している処理手順
これらは全て「ヒヤリ・ハット」です。
社長に報告されるのは取り返しのつかない“1件”だけかもしれませんが、その前兆は日々、現場で起きているのではないでしょうか。
▶ 大きなケガをする前に、今のうちに対策を
小さなヒヤリ・ハットのうちに手を打つことは、将来の巨額な損失・訴訟・業務停止を防ぐ、最も費用対効果の高い投資です。
“転ばぬ先の杖”という言葉の通り、重大なトラブルを未然に防ぐには、兆しの段階で動くことが鍵です。
- 文書の保存ルールを整備し、所在を明確にする
- 情報の持ち出しやアクセスを制御し、漏洩を防ぐ
- 業務フローを可視化し、属人化を防ぐ
これらの取り組みは、今、特に困っていないからこそやるべきことです。
被害が出てからでは、「信用」も「時間」も取り戻せません。
▶ 改善の理由は「困っているから」ではなく「もっとよくできるから」
業務改善とは、“問題が発生したから仕方なく”やるものではありません。
「今よりよくできる可能性」に目を向けて動ける組織こそが、持続的に成長します。
そして、変革の鍵を握るのは「人」です。
▶ 現場任せでは限界。マネジメント人財の育成が不可欠
情報ガバナンスや業務基盤の整備は、もはや現場の努力だけでは成し得ません。
これは経営判断であり、組織としての意思決定が求められる領域です。
ヒヤリ・ハットの共有も、業務改善も、現場の努力だけに任せていては継続できません。
全体を見渡し、構造的な課題を発見・分析する視点が必要です。
- 業務を可視化し、ボトルネックを特定できるマネージャー
- 業務知識を持ち、マネージャーを支える“副マネージャー”の存在
こうした中核人財を育成し、支える仕組みは整っているでしょうか?
「できる人に任せる」から、「できる人を育てる」へ。
この転換が、組織の変革を本物にします。
▶ 最後に:
「何も起こっていない今こそ、最も有利な改善のタイミング」です。
変化を恐れず、兆しに気づける組織は、未来の事故も、そしてチャンスも回避・獲得できます。
「何も起こっていないから安心」ではなく、「何も起こっていない今のうちに動く」。
その意識の違いが、未来を分けるのです。

