第1回 世界の電子政府DXシリーズ

台湾「ジョイン」がもたらす世界

台湾における行政サービスのデジタル化

 台湾において行政サービスのデジタル化が進んでいる。例えば台湾ではデジタル化を象徴する取り組みとして「マスクマップ」や「我的E政府」といった行政サービスが存在する。「マスクマップ」は新型コロナウイルス感染防止対策としてIT大臣オードリー・タンのリーダーシップにより国民がマスクを公平に購入できる仕組みとして開発され、マスクの適切な供給に効果があったことが日本でも広く知られている。また、「我的E政府」とは日本語では「私の電子政府」を意味する。「私の電子政府」は、国民の行政サービスに対する要望を反映し、一人ひとりのライフステージに対応するオンラインサービスが約600提供されるプラットフォームである。
 このように台湾当局は、デジタル技術を駆使してアプリやプラットフォームを創り上げ社会課題の解決に活用しているが、なぜ台湾では国民が真に必要としていることが把握され、それに対して迅速に当局が検討し、社会に展開することができるのだろうか。その要因の1つとして、国民からの意見や要望を把握し、それらに対して当局がどのような対応を行っているのかを公開する行政プラットフォームの存在を挙げることができる。

 本稿では、下記の台湾の行政プラットフォーム「公共政策網路參與平臺」(以下「ジョイン」)について解説する(図1)。

台湾行政プラットフォーム「ジョイン」の登場

 台湾の行政プラットフォーム「ジョイン」は2015年に公開された。導入された背景には、2014年に起きた若者を中心とした「ひまわり学生運動」がある。政府は、国民の提案をインターネット上で受け付ける仕組みを導入すれば、国民の不満が減るのではないかという仮説をもとに「ジョイン」を立ち上げた。立ち上げ当初、「ジョイン」は、アメリカ合衆国政府に対する請願を行うためのウェブサイト「WE the PEOPLE」のように、国民から行政に対する一方通行のオンライン嘆願書の仕組みとなっていた。この国民から行政に対する一方通行の仕組みを変革した人物が、2016年10月にIT大臣に就任したオードリー・タンである。オードリー・タン主導により「ジョイン」は、選挙権を持たない若者からシニア層まで幅広い年代の国民がアイデアの提案や議論ができるコミュニケーションの場として進化している。

 「ジョイン」は、FacebookやGoogleのIDを持っていれば、世界中の誰でもログインできる。ログインし、台湾の国籍を持っているか、台湾の居住許可を持っていれば、投稿も可能となる。投稿はできないが投稿内容を閲覧することができる筆者は、実際にログインし、どのような仕組みになっているかを確認してみた。「ジョイン」では、自分自身のアイデアを提案し、60日以内に5,000人の賛同を得られた場合、その提案に対して行政の関連部門は、2カ月以内に書面により回答しなければならないルールがある。5,000人は、台湾人口約2,300万人の0.02%に相当する。

 また、国民は、提案がいつ行われたのか、その提案に何人賛同者がいるのか、行政が提案に対してどのような回答をしているのかリアルタイムで把握できる。このように意思決定のプロセスの透明性が確保されていることが国民と行政の一体感、行政に対する信頼感につながっている。

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