リコージャパンのBCP ~能登半島地震での対応~

リコージャパン株式会社 総務部長 佐々木 大介
この記事ではリコージャパン株式会社におけるBCP対応の概要説明、ならびに能登半島地震における対応の現況をお伝えいたします。
「BCPの必要性は感じているけど、どう取り組めば良い?」「平時にはどのような備えが必要なのだろう?」「手順やツールをアップデートしたいけど、他社はどんな風に取り組んでいるの?」
BCPとひと口に言っても、非常に幅広く、さまざまな疑問や不明点をお持ちの方が多いかと存じます。当社の取り組みや知見がそうした方々にとって、少しでもご参考になれば幸いです。
近年、日本では自然災害が非常に多く発生しています。台風やそれに起因した水害、土砂崩れなど、ライフラインに影響を及ぼすことが珍しくありません。災害発生時、企業には、自社を含むステークホルダー全体への影響を把握し、いち早く正常な形で事業を動かせるよう、復旧に取り組むことが求められます。
BCPにおいてはこの“ステークホルダー全体”という考え方が非常に大事になります。適切な復旧の手順、必要となる物資の確保などの準備をしておくことで、災害時にお客様、地域、社会といったステークホルダーの復旧に貢献することができます。
非常事態でも、自社が地域や社会から求められる役割を果たせるように備え、事業の持続可能性を高められるということ。これはBCPに取り組む大きな目的のひとつです。
全国の拠点とお客様の復旧・復興支援を両立
リコージャパン株式会社は、リコーの日本市場におけるお客様接点での対応を担っています。業種・業務やワークプレイスなど、お客様ごとに変化する “はたらく”の課題に取り組み、オフィス、現場、地域・社会とともに成長していくことを目指しています。
私たちの事業には大きな特長が二つあります。一つは、製品・サービスの提供だけでなく、サポート&サービスまでをワンストップで対応できること。もう一つは、すべての都道府県に支社があり、それに紐づく拠点を有していることです。2023年4月時点でその数は48支社・348拠点にのぼり、お取引きしているお客様の数は約100万事業所となります。
全国地域密着で事業を展開している点は強みですが、当社の事業をBCPという観点から考えると、日本国内における自然災害の影響を受ける可能性が極めて高いという側面があります。
また、災害の発生時にお客様の復旧・復興を担う立場でもあるため、自社の事業復旧と並行して、いち早く復旧・復興の支援に取り組むことが求められます。
お客様にBCPに関わる商品・サービスを提供することが多くあるため、自社のBCPについても取り組みを疎かにせず、説得力を持たせることが大切になります。

震災対応においては、平時の備えの重要性が増す
例えば台風発生時には、特定の地域が警報・注意報などの警戒が必要な基準に達した際、影響を受ける社員に事前に周知します。自社の被害を最小限に抑えたうえで、被害状況を確認。同時にステークホルダーへの影響を把握し、必要に応じた支援を展開していきます。
当社では多くの災害対応を重ねてきたことで、情報の周知、避難の指示といったノウハウが蓄積されています。また、沖縄などの古くから台風が多い地域の対策など、さまざまな地域の対応事例を社内で共有し、アップデートを繰り返してきましたので、可能な限り先回りできる体制が整いつつあります。
しかし、これが地震となると話が少し変わってきます。まず、地震は事前に発生を検知できません。運が良くても、緊急地震速報での数分間だけです。この「事前検知できない」という点が、地震という災害の取り分け恐ろしい点です。
数分間で判断しなければいけない状況にも関わらず、津波が起きた場合などはものの数分で多くの人命が危険にさらされます。また、倒壊による生活インフラの停止、交通網を中心としたライフラインの麻痺など、地域社会の機能が止まってしまうことも想定しなければいけません。
基本方針は「人命が最優先」
リコーグループではBCPマニュアルなどの基軸となる「危機対応基本方針」を定めていますが、「リコーグループの役員/従業員及びその家族、お客様、ビジネスパートナーの皆様の生命/安全/健康の維持を最優先する」という文章から始まります。つまり、人命を優先することを大前提として動くべきと定めています。
「命を優先するのは、当たり前のことではありませんか?」とお客様から聞かれることもありますが、実際に災害に遭遇すると、事業復旧に必要となる機器や支援物資の状況確認に動いてしまうなど、災害の危険性を軽視した行動をとってしまうことは珍しくありません。
地震のような迅速な避難が必要な災害時には、一層、人命を最優先した動きの徹底が重要となります。「まずは自分や周りの人の命を最優先にする」ということを繰り返し伝え、念頭に置いてもらう必要があります。
自分や家族、周りの人の命を守り、生活インフラの確保に努める。そうして、心身が健康な状態で過ごせる見通しが立ってから、被災されたお客様への対応に取り組むことができます。
特に、行政や自治体、生活インフラなど、社会機能の維持に携わっているお客様への対応が、地域全体の復旧・復興という観点からも非常に重要となります。そうしたお客様の被害状況を正確に把握し、私たちにできる支援を検討・実行していくことが求められます。
社員の知識・意欲を向上
円滑に災害対応を進めるためには、平時からどういった被害を受ける可能性があるのかを予想し、社員への啓発活動を進めておくことが重要となります。
当社では年に2回、各支社と会社全体で1回ずつの安否確認訓練を実施しています。また、併せて支社ごとに避難訓練の実施状況などを報告してもらっています。災害に備えた活動の中で出てきた疑問・懸念点を解消できる時間にもなっています。
なお、共有された取り組みが、離れた地域の支社でも役立つことは珍しくありません。別の地域の実施状況を知ることが、知識のアップデートにつながるのはもちろん、コミュニケーションによって連帯感が強まることが各担当者の意欲にも好影響を及ぼしています。
支社内での啓発活動や備蓄品の確認など、各担当者に能動的に取り組んでもらわなければいけない活動が多数あります。
防災グッズからITインフラまで準備を潤沢に
もちろん、備蓄品の量を定めるなど、具体的なルールの策定と管理も、管理部門にとって非常に重要な業務となります。
現在は事業所ごとに三日分または一日分の水・食料、防災備品の配備を常としています。現地担当者が定期的に確認を行っており、管理面での課題を認識した際には共有会で報告してもらっています。
災害の規模によっては足りないこともありますので、追加の支援物資をリコーグループとして全国で四ケ所、専用の倉庫に配備しています。災害があった際には、各地に迅速に配送できる体制となっています。
食料や生活品に加えて、ITシステム周りを中心とした業務に必要となる設備復旧に向けた備えも必要です。当社では蓄電池、発電機などの電源設備を取り揃えています。また、日常的に使用しているITシステムを冗長化することで、災害時にシステム障害発生が起こる可能性を低減させています。
大規模災害では事業所そのものの耐久性も重要になるので、建屋の災害リスク調査を行い、高リスク拠点についてはそれぞれにあった対策を展開しています。
こうした「生命活動、日常生活の担保」「事業継続に向けた設備の維持」「立地面の特性への対策」といった観点で情報を収集・把握、災害発生時のリスクを最小限に減らすよう努めています。
知見の積み重ねが“適切なスピード感”を生み出す
弊社の災害時の対応手順はすべてBCPマニュアルにまとめられています。マニュアルのアップデートは、運用管理を行っている各主管区に、半期に一度の頻度で必要性を検討・実施してもらうよう依頼します。
東日本大震災や熊本地震など、大規模な災害が起きるたびに知見が積み重なり、内容のアップデートが繰り返されてきました。また、ベンチマークを受けた際に他社との情報交換を行いますが、そうした際に得た学びも反映されています。
マニュアルを策定した当初は、初動対応の重要性に意識が向きすぎており、とにかく迅速・正確に情報を収集、対応を展開するという構造になっていました。もちろんスピード感は大切なのですが、“迅速に”という点にこだわりすぎると、被災地で慌ただしく対応を行っている社員にとって大きな負担となってしまいます。
また、災害対応時は正確な情報の収集・整理が求められますが、「とにかく迅速に報告しなければいけない」という意識から生じる焦りは、誤った情報が出回ることによる混乱を招きかねません。
報告や情報の精査・整理については、一つひとつの企業で適切な手順やタイミングが異なります。当社では実際に災害対応を行った後に、現地の社員との検証から出てきた知見を組み入れ、アップデートを重ねてきました。それを15年以上続けて、ようやく適切なスピード感での対応が実現し始めています。
とはいえ、災害対策は社会の価値観の変化や技術革新に大きな影響を受けるものです。そのため、最初から完璧な仕組みを構築するというよりは、想定外の事態が起きることを念頭にマニュアルを作ること、そして定期的なアップデートを繰り返すことが重要だと感じています。
能登半島地震の初動対応
令和6年能登半島地震では、発生当日の18時過ぎに災害対策本部を設置。各地からの災害状況を第一報として報告してもらいました。震災の直後は現地が非常に慌ただしくなるという知見がありましたので、取りまとめを行う災害対策本部会議は1月3日まで開催を待ちました。
会議が開催されるまでの期間中に、情報の収集や取りまとめなどについて、事務局のメンバーに明確な役割分担を行いました。石川、福井、富山、新潟はもちろん、時期的に帰省されている社員もいる可能性が高く、各支社の担当者にもそうした社員の情報を報告・整理するよう依頼しました。

どうしても情報が飛び交う状況にはなりましたが、会議まで一定の時間を設けていたため、情報が入り乱れた時など必要な時にだけ重点的に確認する体制で進められる余裕ができ、スムーズに情報収集・整理ができました。
結果として、地震発生から24時間を待たずに安否確認の対象となる553名の従業員数の安全が確認できました。平時の防災啓蒙活動、ならびに安否確認の訓練などが功を奏し、被災地の社員の防災意識が高まっていたことが要因だと考えています。
物資供給の面では新たな学びも
情報の集約・整理を行う災害対策本部会議は2月末時点で9回実施。復旧・復興に向けた経過の確認はもちろん、余震が続くことで状況が変わることも想定されるため、当面の間はフォローアップを続けていきます。こうした情報収集・共有などの対応はスムーズに進みました。
並行して物資の供給も実施。1月4日には石川県内の事業所から被災地への備蓄品の配布が始まり、5日には福井県にあるグループの倉庫から石川支社に不足している物資を配送、着荷しました。このグループ倉庫からの支援物資の配送は、2月末時点で4回、他事業所からの配送を含めると7回実施しており、地域への支援に活かしてもらっています。
学びとなったのは、水が想定以上に不足していた点です。飲料やトイレ、手洗い、さらには食事を作る際など、生活を営むうえで必要になる水は凄まじい量となります。それを見越して各事業所に水を保管していましたが、全く足りませんでした。追加の支援物資として届けた水は実に1,680本にのぼります。
また、給水車からの水の供給があるものの、それを溜める容器がないという事態が生じ、ウォータータンクを25個届けました。あわせて、水が貴重な状況下で役立つ、ウェットティッシュなどの衛生用品も送りました。

備蓄品については保管場所を確保しなければいけないという制約があるため、全体的に量を増やせるかは今後の検討次第となります。今回のように被災地の人々が必要としているものをヒアリングし、追加物資を迅速に届けられる体制が重要なのだと、あらためて実感しました。
復旧・復興を担うお客様への対応を優先
お客様対応に関しても、今回はスムーズに進めることができました。当社では社会機能の維持において特に重要な役割を果たされるお客様を、災害対応時には「Sランクユーザー」と位置付けて、優先的に対応しています。具体例を挙げますと、水道や電気、交通網といったライフラインを担う企業や、傷病者対応を進める災害病院、政府や省庁、自治体などが該当します。
1月9日にはSランクユーザーに対し、複合機などの機器類の貸し出しを始めました。この際に自治体のお客様を通じて支援物資なども届けることができ、グループを挙げての支援活動を円滑に進めることができました。
あわせて、Sランクユーザーを中心としたお客様と会うタイミングで、復旧・復興に向けてお困りごとがないかを担当者からお聞きし、必要な支援を追加で届けていくということもできました。
例えば、災害派遣医療チーム「DMAT」から、1月15日に「RICOH eWhiteboard(大型電子ペーパー)」を医療搬送の調整に活用したいとのご要望がありました。リコーの事業部、リコージャパンの石川支社で連携することで、1月17日には設置を完了することができました。
また、輪島市役所から複合機の貸し出し依頼があり、1月16日にお届けした際、復旧スケジュールの管理に苦慮されているとのご相談をいただきました。それを受け、「kintone」を提供するサイボウズ社、プラグインアプリ「KOUTEI」を提供するアーセス社にご相談し、翌17日には「kintone」「KOUTEI」の無償ライセンス(半年利用可能)を発行することができました。



能登半島地震では災害派遣医療チーム「DMAT」が「RICOH eWhiteboard(大型電子ペーパー)を使用
平時に想定していたフェーズに沿った対応が実現
今回の能登半島地震においては、平時に想定していた災害対応フェーズに沿って、人命を最優先に動き、その後に従業員の生活立ち上げを支援し、生活の安定性に見通しが立ってからSランクユーザーの事業復旧・復興支援に取り組むことができました。
これらを現地の従業員たちに負担のかからない、適切なスピード感で実施できたことは、リコージャパンとしての知見の高まりを感じました。また、Teamsが社内的に本格活用されてから初めての大規模な震災となりましたが、被災したあらゆる地域からの情報をTeams上に集約できたことも、情報の錯綜を防止し、適切な対応ができた要因だと感じています。
1月10日にはリコーグループとして、義援金を拠出することも決まるなど、災害発生から20日と経たずにさまざまな角度から地域への支援を進めることができました。平時の備えが奏功したのはもちろん、何より、各地の社員たちが現場で迅速かつ的確な動きをしてくれたことが大きいです。実際に災害が起きたときに正しい行動はなかなか取れないものだと思っています。平時の啓発活動に、従業員の一人ひとりが真面目に向き合っていてくれたからこそ、こうした結果があるのだと思っています。心から感謝しています。
デジタル化、DX化の活用がリスクヘッジに
今後のBCP対応では、ワークプレイスの変化が各企業の災害対応にもたらす影響を整理・把握し、取り入れていくことが重要となります。ハイブリッドワークの普及で事業の拠点が各社員の自宅にまで広がり、拠点が被災したことで事業が停止するという根本的なリスクは低減しました。別の見方をすると、従業員の自宅の災害リスクや、備蓄状況の把握が今まで以上に重要になりました。
これまでは各拠点で勤務していることを念頭に避難訓練などを実施してきましたが、ハイブリッドワークを導入している企業では、従業員一人ひとりが自宅から避難し、災害に対応していくというケースを想定し、啓発活動に取り組むことが求められます。
加えて、業務におけるデジタル化が進み、企業と社員の情報伝達手段は電話やメール、チャットなど多様化しています。さまざまな手段で寄せられた安否などの情報を、クラウド上に集約・整理することで、不明瞭な情報・誤情報などに振り回されるリスクを低減できるようになりました。また、インターネット回線があれば対応が可能な業務が増えてきたことから、業務復旧にかかる速度も短縮されてきています。
このように、デジタルサービスを上手に活用することができれば、リスクを分散させ、事業の継続性を向上させられます。デジタルサービスの導入時には、BCPの観点から影響の検証・検討を行い、アップデートを続けていくことが重要です。
ステークホルダー連携の重要性は今後も加速
私たちはデジタルサービスを提供する企業として、BCPの分野でも、お客様にとっての頼れる相談相手であり続けることを目指しています。そのためには、お客様の業種・業務に対する深い理解はもちろん、デジタルに関するトレンドも把握し、最新・最適な提案をすることが求められます。
当社では特に「kintone」など、他社との連携によるデジタルサービスを多く提供しているので、いかにBCP対応においても、他社と連携して対応を進めていくかということが、今後重要になるとの課題認識をしております。
加えて、今回の能登半島地震では、被害が大きかった地域に関しては交通などのライフラインが麻痺してしまっており、支援物資を届けようにも物理的に入っていけないという事態が多くありました。こうした事態への支援には、残念ながら民間企業だと限界があり、公的機関との連携を強めていくことが重要になると強く感じています。
コロナ禍でハイブリッドワークが普及してワークプレイスが変化したように、デジタル技術や社会情勢の変化によって、BCPに求められる要素は変化していきます。事業の持続可能性をBCPによって高めるためには、アップデートを繰り返すこと、そしてその際に多くのステークホルダーと災害時に連携する必要があれば、事前に調整をしておくことが重要です。
数十年前では考えられないほど、IT環境は業務遂行に欠かせないものになっています。こうしたデジタル化・DX化の流れは加速していくと予期されています。BCPにおいても、業務フローの中で自社だけで対応できるもの・そうでないものを整理し、災害時にそのステークホルダーとどのように連携するかということを想定し、施策に組み込んでいくことが、ますます重要になってくると考えられます。

機関誌IM2024年5・6月号再掲

