公文書監理官による職員の意識改革 ─相模原市、3年間の取組みを振り返って

※この記事は、機関誌IM2024年5・6月号の再掲記事となります。掲載当時の情報に基づいているため、現在の状況や制度、取り組み内容と一部異なる場合があります。


相模原市の中心部と庁舎

はじめに

 相模原市職員の不祥事に端を発し、検討を重ねた後に創設した公文書監理官(以下、監理官)制度について、その経緯を中心に『機関誌IM』(2023年1・2月号)で「全国自治体初の公文書監理官を設置した相模原市」をテーマに書かせて頂いた。その中で特に訴求したかったことは、相模原市の事例を見て適切な公文書管理には専門職員と職員研修が欠かせないことだった。

 さて今号では一部重複する部分もあるが、3年間の監理官の活躍などを中心に、職員の公文書管理への意識の向上とその取組みについて記すこととする。その前に公文書管理法の施行以降に各地で起こった公文書を取り巻く不祥事に対して、再発防止にどのような取組みをしたのかを調べてみた(表1)。

表1 自治体による事案と原因、その後の対応

地方自治体発生した事案内容原因その後の対応
千葉県公文書館2016年3月までの1年間に1万177冊を廃棄規則を無視、確認なし、専門職不在マニュアル作成と制度整備、歴史公文書の選別アドバイザーを制定・施行
茅ヶ崎市*2017年4月
住民異動届1500枚超を廃棄
廃棄の規定なし「再発防止に取り組む」の宣言と公文書管理条例を2021年度から施行した
香川県立文書館*2017年11月 
歴史公文書1万5千冊(農地転用などの文書)が廃棄扱いにされた。(歴史的公文書を守るために専門知識のある職員が残すべきだ主張していたが)
専門職の判断を無視専門職の意見を取り入れること
平塚市2017年9月 
住民異動届などの申請関係文書や調査関係文書、経理関係文書、庶務関係文書など計455件誤廃棄(置き場所を間違ったために誤廃棄したという話もある)
保存期間の誤認識による廃棄。廃棄簿なし。委託事業者におけるデータ管理や同市が提供した保存期限の誤りにより起った。1.行政総務課と委託業者双方が保存文書に関わる関係データの確認を徹底する。
2.委託業者への委託業務の履行の確認を徹底する。
3.原因を究明し再発防止に向け体制を整備する
藤沢市*2019年7月
公共料金書類の廃棄
廃棄簿、確認共になし「再発防止に取り組む」ことを宣言した
目黒区*2020年8月
議会運営委員会の議事録を廃棄したため議会活動が検証不能になった。裏会議の存在が明らかに 
本会議を無視したルール違反判断過程の記録、自治体の公文書管理の意識を徹底した
和歌山県2021年9月
2015年以降の河川占用許可、道路占用許可申請に関する公文書、収入調査票20件などが所在不明
職員の管理不備「再発防止に取り組む」ことを宣言した。
具体的な取り組みは見当たらない
三重県*2022年7月
職員の出張に関する復命書や議会関係資料のほか、予算要求や出納、会計、退職手当などの関係文書を、手続きを経ずに廃棄。公文書等管理審査会に歴史的公文書として意見を求める必要があったにも拘わらず
公文書管理条例で定める手続きを職員が失念した「廃棄による実害はない」として、職員の処分はしない方針とした。「県職員としてあるまじきこと」と反省を促した
相模原市*2021年10月
こどもセンターの職員が個人情報を含む公文書を持ち帰り、一般ゴミとして資源集積場所に排出したこと判明した。収集事業者が発見し、中身を確認したところ、児童の名簿など個人情報が記載された書類が含まれていることが判明した 
通常1年間施設で保管した後、毎年5月に回収して溶解処分を行っているが、処分に漏れた文書を自宅に持ち帰り、廃棄しようとした可能性があった公文書監理官は文書一覧表の整備、個人情報の記載がある文書の取り扱いの整理を助言。さらに個人情報保護についての研修などを実施した
法務省2018年12月
職員の出勤簿や表彰関係の文書のほか、事件関係の記録や統計作成のための元データ。公文書管理法は、廃棄前に内閣府への報告を義務づけているが、職員が怠った。保存期間が過ぎていない公文書も12件あった。これらの公文書は、種類ごとに分類し、一定の期間を区切ってまとめたものを「1件」と数え、保存期間を定めて管理していた 
ファイル約7千7百件を誤廃棄。公文書管理法は廃棄前の内閣府への報告を義務づけているが、文書管理の担当者らが知らなかった関与した担当者を確認したうえで、処分について「適正に対応したい」とした
会計検査院2020年12月
保存管理している各府省等から提出された計算書及び証拠書類の中で保存期間(5年)終了前に74件の誤廃棄が判明した。前年に廃棄を実施した際に誤って混入して誤廃棄した
計算証明書類の廃棄の際の確認が十分でなかった⑴計算証明書類の廃棄の際の確認の徹底
⑵事務総局の幹部職員を含む全職員に対する指導・注意喚起
⑶全職員向けの研修の実施
⑷点検及び監査の徹底

*印は公文書管理条例が施行済の自治体(事案の発生当時は施行されていなかったが、現在は施行済自治体も含む)

 以上9地方自治体(以下、自治体)と法務省、会計検査院から不適切な公文書管理の事案を紹介したが、ここで取り上げたいことは事案の内容や原因よりも本気度の高い再発防止に向けた対応策の内容である。不祥事に対する謝罪の定番としてよく耳にする「二度と起こらないように再発防止に努めます」であるが、これだけでは前向きな改善への姿勢は伝わらない。原因を徹底的に解明し、具体的な施策で再発防止に向けた取組みを知りたいのだが。
(上記事案は以下の記事などを参考)
香川県 https://ameblo.jp/trainbridge1/entry-12518872364.html
茅ヶ崎市 https://www.kanaloco.jp/news/government/entry-10980.html
千葉県 https://mainichi.jp/articles/20170420/org/00m/040/008000c
平塚市 https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/press/page02_e00001_00182.html
目黒区 https://mainichi.jp/articles/20201030/k00/00m/010/368000c
和歌山県 https://www.security-next.com/129704
三重県 https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/001024212.pdf
相模原市 https://www.security-next.com/131223
法務省 https://mainichi.jp/articles/20181214/k00/00m/040/127000c
検査院 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67837890T00C21A1CR8000/

再発防止へ真正面から取組んだ2つの事例

 上記自治体の不祥事の原因の多くは、①職員が公文書の保存期限や廃棄について規則通りに実施されていない ②専門職がいないの2つに大きく分けられる。うっかりミスの「破棄」と軽く捉え、なぜ廃棄が発生したかを公文書管理上だけの問題ではなく、職員の規律や育成に欠かせない研修の見直し、また職場のコンプライアンス意識調査などにまで踏み込んだ施策を考える自治体は少ない。中には実害がないことを理由に「反省」だけで終わりにした自治体もある。

 また、ある市の担当者から聞いた話であるが、「公文書管理で何か不祥事があれば見直しや改革策を検討テーマにできるチャンスになるが、問題なく何も起こっていないから取組む必要はない」という。したがって、この市には公文書管理条例も公文書館もない。つまり不祥事の有無にかかわらず公文書管理を根本的に見直すべきだと主張する首長は多くはいない。ましてや公文書の廃棄事件が「住民に対して公文書管理の信頼を損うことになった」という首長発言は不祥事発生の自治体からはほとんど聞かれない。

 そこで不祥事後の対策として、公文書管理に関して職員による職場の点検実施や職員向けの再教育や研修の見直しなどの根本的な対策を講じた会計院と相模原市※1をまずは紹介したい。

※1  相模原市は、神奈川県内では横浜市、川崎市についで第3位の人口規模、2007年3月の2町の編入合併により人口は72.5万人。    
緑区、中央区、南区で構成される政令指定都市(2010年4月)である。橋本駅周辺(相模原市緑区)にリニア中央新幹線の途中駅の設置が予定されている。

①会計検査院

 会計検査院の場合、誤破棄については、同院が不祥事に真摯に向き合う姿勢が現れている。2020年12月28日付の会計検査院報告において「行政文書の誤廃棄が確認されましたので、その概要と再発防止策をお知らせします。今回の事態を重く受け止め、今後、このようなことが起きないように、事務総局の幹部職員を集めて適正な文書管理を徹底するよう求めるとともに、全職員に対する注意喚起、研修の実施等を行うことにより、再発防止を徹底してまいります」と公表された。そして具体的な対策の中に、「全職員向けの研修の実施、職場の点検及び監査の徹底」を織り込んだ。単なる誤廃棄や公文書管理の不徹底と簡単に捉えるのではなく、根本から再発防止に臨んでいることがわかる。

②相模原市こどもセンター

 相模原市こどもセンター事件の場合では、ゴミ収集者の機転で廃棄処分は免れたが、課内で把握されていない文書が作成・保管され、また定めた保存期間を超えて文書が保管されていたことも判明した。新たに配置された監理官は調査の実施から文書の一覧作成、個人情報記載文書の扱いなどの助言の他、保管文書の取り扱い一覧に関する調査・指導など数ヶ月にわたり実施した。

 改めて感じるのは、調査から問題点の分析、一連の指導をした監理官の存在だ。文書管理で問題が発生した場合、先送りせずにこのような素早い対応ができる専門職の存在は根本的な再発防止策につながるに違いない。しばらくは同センターの公文書管理・保存に追跡調査が必要だが、結果として監理官の存在がクローズアップされることになった。新聞報道では事件だけを取り上げたが、その後のきめ細かな対応の紹介と監理官の導入効果について紙面を割いてはくれなかった。当該事件の職員に相当の処分が下ったのは言うまでもない。
 
 そもそも監理官制度の動機は、麻溝台・新磯野第一整備地区土地区画整理事業(以下、本事業)に関わる職員の疑惑に対して、約4千万円の損害賠償を求めて同市が地裁支部に提訴した事件があったからだ。その内容は2年間に土地評価を一部の地権者が有利になるよう不正に引き上げるなどの不正行為や不透明な入札があった事実の他に、検証すべき公文書(廃棄ではなく、当初から不存在)がなかっただけでなく、不祥事から浮かび上がったのは職員の公務に対する意識とガバナンスの欠如も原因だった。

 そして調査にあたった第三者委員会からの提言は組織運営の見直し、コンプライアンス上の意識改革、適正な公文書管理の改善などの取組みだった。このため同市は第三者委員会からの提言を受けて監理官制度を2021年4月に開始、今年で4年目を迎えた。話はさかのぼるが、公文書管理を巡る同市のこれまでの取組みを調べたので紹介しておきたい。

これまでの相模原市の公文書管理の取組   
~公文書管理条例化と公文書館の設置

 表2 相模原市の取組

年月相模原市の取組参考
1963(昭和38)ファイリングシステムと公文書科目表の導入ファイリングシステム導入は1959年兵庫県西脇市
2001(平成13)年4月情報公開条例施行国の情報公開法は1999年
自治体では1982年金山町
2004(平成16)年4月文書管理システム運用開始
2005(平成17)年4月個人情報保護条例施行
2010(平成22)年4月政令指定都市全国19番目
2014(平成26)年4月公文書管理条例施行政令指定都市4番目
全国16番目
2014(平成26)年10月公文書館条例施行
2014(平成26)年10月公文書館開館政令指定都市9番目
全国65番目   
神奈川県内5番目
2021(令和3年4月)公文書監理官による指導開始 
公文書管理向上委員会の設置
地方自治体で初めての制度
公文書監理計画などの策定

 同市の公文書管理の見直しのきっかけは2011年4月1日に施行された公文書管理法(「公文書等の管理に関する法律」)であり、その第34条「自治体に対し、同法の趣旨にのっとり、保有する文書の管理に関して必要な施策を策定し、これを実施するよう努めなければならない」という規定をしっかり受け止めたことである。そして2012年4月、当時の加山俊夫市長は「現用公文書の管理の在り方について」を諮問をした。審議会内に公文書管理部会を設置し、市長諮問に対して調査・審議を行った。

 その結果2013年6月、審議会は公文書管理において行政運営を効率的に行うとともに、公文書等を市民共有の知的資源として適切に保存・利用が図られるような制度として「公文書管理条例化」を提言し、条例に基づく公文書の適正な管理を着実に推進するよう要請した。

 さらに公文書館の設置については、歴史的公文書をより適切に保存し、閲覧に供するとともに、これに関連する調査研究を行うために、「公文書館の設置」が必要であるとした。また、この条例の目的を十分に達成するため、「文書管理に関する専門家やこれに準じた知見を有する職員を配置」すべきであるとし、最後に電子文書・電子化文書の保存等については、電子媒体による公文書等の適正な管理を行うため、管理・取扱いのルールを確立・徹底をし、その保存に関する国の動向や技術革新の状況を調査研究することが望ましいとした※2

※2  平成25年6月 相模原市情報公開・個人情報保護・公文書管理審議会「 公文書の管理の在り方等に関する答申」

 審議会提案を受けて、2011年同市総合計画前期実施計画のなかに「公文書を市民共有の知的資源として保存・利用を図るために公文書の管理体制とそのための条例化と公文書館機能の構築に向けた検討を進める」ことが盛り込まれた。総合計画に織り込むことによって実現への優先順位が高いことが判る。時折、公文書管理条例化が掛け声だけで進まない自治体では、総合計画などにその条例化が盛り込まれていないことが少なくない。

 そして同市では5年以内の条例化の目標を立てた結果、2014年4月に公文書管理条例を施行し、さらに同年10月に旧庁舎(旧城山町)の一部を利用した公文書館を開館した。ちなみに同館の設置は神奈川県内(市19、町13、村1)では藤沢市(1974年)、川崎市(1984年)、寒川町(2006年)に次いで4番目である。同じ政令指定都市である横浜市には設置されていない。

 それ以前のことを調べてみると、同市はこれまでもファイリングに先駆的な活動を行ってきた。1963年からファイリングシステムと公文書科目表を導入し、早くから現用文書の管理と情報の共有に前向きな取り組みを開始した。これは職員の意識改革と知的生産性の向上をめざしたものだった。2011年度の計画からわずか3年で公文書管理条例と公文書館が開館できたのは、このような長年の取組みの実績があったことも見逃せない。その結果、公文書管理条例と公文書館による下支えが現用文書から非現用文書へのルールとフローが確立し、歴史的公文書が保存・公開される仕組みを構築した同市であるが、今回発生した不祥事をきっかけに組織や職員の規律に大きな改革を迫られることになった。

麻溝台・新磯野第一整備地区土地区画整理事業の区域と地中障害物

本事業に関わる不適切な事務処理と第三者委員会からの報告
~職員と職場の意識改革

 前述した2014年に決定した本事業において、起工式後の2019年5月に大量の地中障害物が見つかっただけでなく、地権者に有利になるように不適切な手法で宅地評価を引き上げ、また事業の委託者を選定する入札でも不適切な評価があったなど職員による杜撰な事業の実態が明らかになった。本村賢太郎市長は「市民の信頼を損なう重大な事案が散見され、重く受け止めている。事業の正常化に全力で取り組む」と述べ、第三者委員会に調査を依頼した。2020年3月に当該委員会からの報告では、組織運営上の問題に対する改善策として10項目を挙げた※3。狙いは一言でいえば「職員と職場の意識改革」でもある。下記の項目を実行するには、その基盤となるのが信頼性と証拠性を保有する記録と公文書であり、公文書マネジメントが機能してこそ適正な改善策が実行できる。

※3 2020年7月30日「相模原市組織運営の改善に向けた取組方針」(相模原市)

1.コンプライアンス上の意識改革
2.内部統制等の強化
3.人材の育成(スペシャリスト育成)
4.適正な人員配置
5.情報やノウハウの共有・議論ができる職場作り
6.財政改革
7.ハラスメント対策
8.外部からの市職員に対する強い要求への対応策
9.適正な公文書の作成・管理
10.入札及び契約に関する改善策

 当該土地事業が決定された当時、2010年4月の政令市移行の時期と重なり、組織体制が未整備だったことも背景にあったと言われた。言い訳のようにも聞こえるが、果たしてそうだったのか。職員の公務員としての意識が低下していたのではないだろうか。
 そして同委員会報告を受けて2020年7月本村市長は市民の信頼回復に応えるべく「相模原市組織運営の改善に向けた取組方針」を発表した。また市議会でも特別委員会を立ち上げ、2021年3月に「事業の推進と問題の再発防止に向けての提言とまとめ」を報告した。

組織運営の改善に向けた取組方針      
~適正な公文書の作成と公文書監理計画

 市議会特別委員会の報告では公文書管理条例が施行され、文書作成の義務があるにもかかわらず、「意思決定に至る過程等が具体的に記載された文書の提供が不十分だった」とした。つまり初めから文書を作成していなかったことが判明した。余談だが、当該職員は事業の方針策定などに関する記録もないばかりか、局部長を飛ばして事業が進められた。説明を詳らかにしない疑惑の職員は「市長や副市長も承知している」と言い放っていたという※4。この有様では400人の地権者のいる土地の事業に対して、どのようにして説明責任を果たそうとするのか。

※4  2023年3月9日東京新聞「相模原区画整理 責任の所在明確にせず 百条委報告書」TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)


 さらに「決裁文書にハンコを押した記憶がない」という元都市建設部長の発言も出る始末だった。当時は「求められる果敢に挑戦する職員」(職員研修計画に記載された方針の一つ)とは程遠い「なんでもあり」の職員と職場だった。公文書管理条例が定められた後、本来すべきだった公文書研修を疎かにしていたかもしれない。条例の施行だけでは目的は達せられない。

 そこで市長は「適正な公文書の作成・管理」についての中で、条例の目的を十分認識した適正な公文書管理を徹底するためのさらなる取組が必要だとして、①各課・機関の文書管理の統括責任責任者である所属長を対象とした研修の実施、所属長から職員へ文書作成指示の徹底及び階層研修や文書主任研修などの充実、②公文書の作成に関する指針の見直し、③公文書管理の状況をチェックし、指導改善を行う公文書監理官を設置に取組むことになった。

 まず2021年3月に「公文書作成に関する指針」の改正をした。その内容は、特に作成が必要な文書として市長などへの説明資料を追加したこと、また説明責任を明らかにするために会議録には原則、発言者及び発言内容を記録することとした。そして2021年度から本格的な活動が始まった。4月には公文書監理官及び情報公開・文書管理課を設置し、「相模原市公文書管理向上委員会」を発足させ、計画的な取組みを実施するために「公文書監理計画」を定めた。

相模原市公文書管理向上委員会の発足    
~さらに良い結果を出すために

 この委員会は公文書管理条例に基づいて公文書管理を適正に行うための体制の推進を図るために設置された委員会であり、主に各実施機関の統括文書管理者など10名で構成され、全庁で取組むことを狙いとしている。運営幹事は情報公開・文書管理課が担当し、委員会では公文書監理計画に関することの他に点検結果とその情報を共有することである。内閣府でも公文書管理委員会は存在するが、このような向上委員会は設置されず、自治体での設置は極めて画期的なことである。

 同委員会には、司令塔としてより一層公文書管理を充実するための施策立案も含まれる他、「PDCA」(計画・実行・評価・改善)を導入し、公文書管理が常にどこで、どのような状況になっているかを点検・検証する重要な審議の場ともなっている。たとえばこの監理官は所属長を中心に責任を以って公文書管理に取り組んで欲しいとお願いしたが、定着できなかった。そこで同委員会によって集中的な公文書管理強化月間が設けられ、意識の徹底が図られたという※5。いずれにせよ監理官制度という新たな試みに、このような手厚い支援があればこそ良い結果が生まれることは間違いない。今後は、同委員会から提案される新たな施策にも注目したい。

※5 令和4年度第1回公文書管理向上委員会会議結果

2021年度公文書監理計画と実施結果※6    
~意思決定の過程が分かる公文書の点検・指導

 同計画においての具体的な取り組みは、①全職員を対象とした公文書の管理状況に関する自己点検の実施、②文書引き継ぎ時の実施調査、③局、執行機関等を指定して行う定期検査、④随時の公文書管理調査、⑤公文書管理ニュースの発行、⑥研修等の充実、⑦情報公開・個人情報保護・公文書管理審議会への報告、⑧公文書管理向上委員会の運営である。

 この年約3ケ月にわたる135所属の文書引き継ぎ時の実地調査では監理官は要改善、または不適切の評価をされた所属に対して438の助言を行ったという。その内容は、保存期間を過ぎた文書が存在、ファイルナンバーが未登録、ファイル背表紙に未記載、キャビネットの上に多数の文書が置いてあったなどである。また歴史的公文書の定義を正しく説明できない職員も中にはいたそうだ。

 特筆すべきは、本事業の不祥事の根幹にあった公文書の不存在に監理官はメスを入れたことだ。それが「意思決定の過程が分かる公文書の作成が適正に行われているか」を中心に41所属をほぼ1年かけて調査をした。その内「概ね適切」だったのは3所属で、その他の所属に対して174の助言を監理官は行った。その内容は、外部機関との会議で取得文書がないこと、相談・交渉などの記録で個人名を含み閲覧区分が不適切、会議結果報告に文書管理システムが非活用、ファイルナンバーや個別名称の適用の誤りだった。ここまで立ち入った調査ができるのも監理官の強みである。

 引き継ぎ時の調査の前に実施された自己点検から、各所属で改善を図っていたので実地調査では大幅に改善も見られた。また自己点検チェックリストでは所属長用と一般職員用に作成され、不祥事を反映して会議録作成の関しては共通設問とし、その他文書の作成、引き継ぎ、保管、決裁などに関するものだった。事前に実施したチェックリストをもとに点検前には文書の保管に改善を済ませた所属もあったという。だが職員が工夫して書類を使いやすくしている優良事例もみられた。

 点検調査の結果、①所属長がキャビネット内の文書を把握していない、②起案中の文書を懸案フォルダーに収納していない、③調査時は整理されていたが、調査後には元に戻ってしまった所属などいくつかの課題が散見された。これらを踏まえて、次年度には再度の自己点検、定期的な職場巡視、追跡調査の実施の強化に取り組むことになった。試行錯誤を繰り返しながら監理官と担当職員の地道な努力は次年度も継続した。

※6 2021年度公文書管理向上委員会報告

2022年度公文書監理計画と実施結果※7      
~半数以上の職員が公文書管理の改善状況を実感

 公文書の保管状況の全課調査は、2年間で終える予定であり、この年度は市内2区の課を対象とし、また前年度に監理官から改善提案に対応が遅れた課や8個以上の改善項目のあった課に追跡調査も実施した。この調査では監理官は要改善の54所属に対して282の助言をした。また合併前の旧津久井4町で作成された文書については、登録などの整備をして当該文書の廃棄や公文書館への移管などを指導した。

 そして公文書の作成状況調査では2024年度までの4年間で調査を終える予定であり、この年度では4局と1委員会を対象とした。この調査では事前調査で内容をチェックし、不適切な取り扱いがあれば所属長などへのヒアリングを実施した。その他に監理官は職場巡回、しかも時間外にも事務室を点検して助言・指導を行った。特に5月から6月にかけては「公文書管理強化月間」として職員の公文書管理の意識向上と各所属における主体的な取組みの促進を図ったことである。特に引き継ぎ文書については内容を丁寧に見ることを徹底したという。

 自己点検では約60%の職員が、公文書管理状況が改善されていることを実感し、会議録作成の精度が向上し、また統合文書管理システムで収受・決裁する職員も30%以上のUP率となり、好成績を納めるようになった。だが一方ではファイル背表紙の記載が正しくない、外部からの電子文書の収受方法に誤りがあった、自席で公文書を保管している職員も散見されていた。

 この年では研修の充実をめざし、各階層別の研修では延べにして約10日間実施し、特に文書副主任の研修を新たに実施した。そして自己点検結果、優良事例など公文書管理ニュースで年4回にわたって報じた。最終目標年度は2025年度になっているが、監理官と調査担当者にとって、職員から改善状況を実感する度合いが多くなったと聞くと達成感を得られたに違いない。

※7 2022年度公文書管理向上委員会報告

2023年度公文書監理計画と実施結果※8      
~文書作成の基本ルールを確認

 2023年度の基本計画は職員一人ひとりが公文書管理を理解するために、自己点検による日頃の公文書に関する活動を振り返る機会を設けることだった。さらに保管状況の実地調査と公文書の作成状況の定期調査を中心に実施し、また各階層への研修の充実もテーマとした。

 そうした取組みの中で、特筆すべきは「公文書の作成に関する指針」で特に作成が必要と定めている文書が作成されているか、またその文書の保存期間は適切かを調査ポイントとしたことだ。前期は25所属、後期は51所属を対象とした。この中には前年度の調査で「要改善」と採点された所属も含まれている。その中で「要改善」または「不適切」と評価された66所属について、監理官は176の助言を行った。特に審議会・協議会などの会議録は発言者の名前が未記載も散見され、また非公開だからを理由に作成すらなかった場合もあったという。改めて公文書作成指針に基づいたルールの理解を職員に促し、その結果適正な公文書の作成・保存の重要性を監理官は呼びかけた。

 ところで会議録は意思決定プロセスと大いに係わる記録の中で、意思決定の責任者を特定できる重要な文書である。その他、承認者はだれか、いつ意思決定したのか、何に基づいて何を意思決定したのかなど業務に係わる文書の重要性を理解させるのも監理官の任務であろう。つまり業務の内容、必要性、市民との関り、目的、プロセスを理解し、それらの責任ある説明を支えるのが公文書であるからだ。そして効率的な仕事には各職場の公文書情報の共有と検索性を職員は日頃から意識すべきだろう。

 その他に設定を誤り、軽微な文書として保存期間1年未満とした文書もあり監理官は見直しを求めた。また新規事業などの場合には公文書科目表に該当がなく公文書科目表の改正が必要にも拘わらず放置していたケースも見つかった。誰でも適切なファイルナンバーを選択できることが公文書の作成・保存に必要であることを鑑み、計画的な科目表の見直しがクローズアップされ、5千を超えるファイルナンバーの現状から不要なファイルナンバーの削除も検討課題となった。このように調査や協議を重ねるうちに新たな運用ツールの課題も見つかるなど監理官制度は双方にとってメリットのある仕組みだと感じられた。

 2024年度も5月から公文書管理の状況の自己点検と強化月間を通じて基本ルールの実践状況の定期調査が始まる予定である。一応2024年度で全ての公文書の作成状況などに関する定期調査が終了するが、各所属の2回目の調査を終えることによって、その後は検証に軸を置いた活動になるというが、監理官の活動は決して止まることはない。

※8 2023年度公文書管理向上委員会報告

「相模原市組織運営の改善に向けた取組方針」に基づく3年間の取組結果
~本事業再開への区切りとして

 事実、2021年3月設置の百条委員会では証人喚問など40回以上開催され、前市長や元所長からの確証ある証言を得られなかったが、準備不足で事業を進めたこと、公平性や透明性のない事務処理があったこと、当時の市長や局長のマネジメントの欠如なども露呈した。いずれにしても全体を通してみると、肩透かしの感のある追及に終わったようだ。

 本事業の第三者委員会からの答申を受けて、改善をめざした10項目の取組結果を2023年4月、本村市長は公表した。その中で本村市長は「公文書監理官の設置、行財政構造改革プランの策定など、改革や改善に向けた新たな仕組みの整備の他、ハラスメント対策や公益通報に関する体制の再構築、既存の方針等の改定など、これまでの取組みを拡充したことで一定の成果があがったものと考えています」と延べた。事業再開には一つの区切りが必要だった。

 本事業を振り返ると、2017年に工事に着工したが、大量の地中障害物が出たことで2019年6月に工事を一時停止し、内部検証を開始した。そして2020年には改善に向けた取組方針を公表した。さまざまな見直しを迫られ、2022年に事業を再開したが、立ち止まって考えた3年間は決して無駄な時間ではなく、まさに行政改革だった。2029年には完成予定だという。当初の総事業費127億から541億に増額されたが、圏央道に近く新たな産業拠点が生まれると、その事業効果で税収9億円の他、雇用創出も見込まれる※9

※9  2022年5月20日 相模原市発表資料 「麻溝台・新磯野第一整備地区土地区画整理事業について」

インタビューから             
~公文書館長から監理官へ転任

 今回のインタビューには樋口一美公文書監理官、富樫晃情報公開・文書管理課長、湯田和弘(同課総括副主幹)に出席を頂き、1時間にわたり公文書管理再構築に向けた取組と各所属への巡回指導を中心にお話を伺った。印象に残ったのは「公文書管理の仕組みがあっても職員の意識だけでは実現できません。巡回先の課の実態を見て、課題を洗い出し、具体的な改善策を一緒に考え、実態にあった課のルールを定めることが大事です」という監理官からの話だった。そして巡回時に所属長以下全員で対応し、しっかりメモをとる課とそうでない課ではおのずと改善への意識も高く、成果も違ってくるという。

 公文書館への移管については「めざすのは移管数のアップではなく、保存期間満了文書の中身のチェックが大事で、ここに時間をかけて欲しいです。永年保存から30年保存に変更しましたが、点検もなく永年保存のまま置かれている場合も見受けられます。中身を調査して廃棄か、歴史的公文書か、常用かの判定が必要です。また紙文書を減らすことも指導しなければなりません」と話された。

 これらは公文書館長から監理官へ異動された方ならではのコメントである。同市では2023年度は情報公開・文書管理課長が公文書館長へ転任し、公文書館長が監理官に就くという理想的な異動となった。監理官のアドバイスで公文書管理が改善されるだけでなく、公文書の扱いの意識を高め、風通しの良い職場と高い意欲と実行力ある職員が多く生まれることを期待している。

終わりに

 公文書管理法が施行されてから10年以上経過したが、ガイドラインなどの通達だけでは実効性が上がらないのか、国の行政機関に対して第三者による監査を2022年7月~ 12月に実施した。その結果、充分ではないが適切に行っているというレポートがある※10。その内容は相模原市の点検・調査報告とほぼ同じ内容の改善や見直しを対象部門に指摘している。ルールを理解し、不祥事の再発防止を進め、確実に公文書管理を進めるのは実地調査を伴う公文書監査制度が欠かせないことだ。

※10 「 令和4年度における公文書監察の取組について」(令和5年4月 内閣府公文書監察室)

 話はかわるが、官民問わず、どんな業務においても信頼性と説明責任が保証されるには文書情報が基盤になり、そのためには組織のトップはガバナンス構築の責務がある。このガバナンスの機能次第で文書情報のマネジメントの優劣も決まると思われる。自治体に置き換えれば、日ごろからの文書情報マネジメントを意識しないと、信頼性のある行政と市民サービスの確保ができない。それを指導できる監理官の配置は心強い。

 最後に、業務の信頼性を確保する公文書管理マネジメントと専門職について記したい。公文書管理マネジメントは公文書の作成から保存、歴史的公文書として公文書館への移管というフローだけを示すものではない。公文書の有する信頼性、真正性、完全性、利用性によって、公文書管理マネジメントの機能が組織内の各業務の信頼性を保証することにつながることを認識することが必要だ。特に現用文書にはそれらが求められる。しかしながら、公文書を誤廃棄などの不祥事から見えてくるのは、公文書管理のルールを定めてもそれを具体的に指導・コントロールする人がいないことだ。専門職のいない体制では確実な公文書管理は実現しないことが相模原市の出来事から見えてくる。

 欧米などでは現用文書を扱う専門職(レコードマネージャー)の存在を耳にするが、日本ではなじみの少ない職種だ。今回の監理官の活躍はまさにレコードマネージャーの役割を果たした重要な任務だった。業務記録を文書化してだれもが利用できるようにしておくという一見単純そうな作業だが、信頼性確保と説明責任を果たすことになると点検時や職員研修で理解させることも必要だ。また現用文書の管理が確実にマネジメントできないと、良質な歴史的公文書も生まれないことも事実だ。一般的にアーキビストは非現用文書を扱うとされているが、日頃からレコードマネージャーとして職場の巡回点検・指導や研修プログラム作成に関わることが大切である。

 記録管理の国際標準(ISO 15489)が制定されてからすでに久しい。この標準は記録管理のベストプラクティスと言われている。記録管理の要求事項は「業務の継続的な遂行を支援し、規制環境への適応、必要な説明責任を果たすためには組織は真正で信頼でき、利用しやすい記録を作成し、これらの記録の完全性を必要な期間維持しなければならない」としている。今後、相模原市ではボーンデジタル文書や電子化による公文書管理が一層進むと思われるが、管理ルールと電子文書の真正性
と完全性、長期保存の課題に取組む必要があり、そこには監理官による各課へのこれまでのアドバイスや改善提案が功を奏するに違いない。


 今回、公文書管理の担当者と監理官からの取材を通じて考えさせられたのは、再発防止にとどまらず、職員の公文書管理の意識改革をめざして、各業務に係わる公文書管理の現状を調査・指導した自治体は相模原市の他には見当たらない。常に先を見据え、公文書管理のベストプラクティスの実現に向けて地道な取り組みを続けられている職員の方々に敬意を表したい。

機関誌IM2024年5・6月号再掲

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