公文書管理の条例化を巡る自治体の話題
※この記事は、機関誌IM2025年1・2月号の再掲記事となります。掲載当時の情報に基づいているため、現在の状況や制度、取り組み内容と一部異なる場合があります。



はじめに
全国ほとんどの自治体で情報公開法が条例化されてから久しい。そして2011年4月、公文書管理法が施行され、情報公開制度を支える公文書管理が法制化されたことで、「車の両輪がそろった」と例えられた。だが多くの自治体では公文書管理への取り組みに大きな変化は見られず、また公文書管理の条例化も同様に進んでいないようだ。
改めて地方自治法を読むと、「第三章 条例及び規則」において、「第十四条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。②普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない(以下略)」と書かれ、現用から非現用文書さらに歴史的公文書において、制度的かつ統一的な公文書管理を定めるには条例化が求められる。
言い換えると、条例として全ての実施機関に情報公開の義務を課し、または権利を制限することができる制度と同じように、公文書管理を条例化して適用することも必要だ。公文書を住民の知的共有財産と考え、統一的な管理をめざすには条例でなくてはならないはずだが。
さて、今回は信頼性のある行政運営に欠かせない公文書管理の条例化を実現した犬山市と、これから同条例の施行をめざす小田原市と厚木市を取り上げ、現状と課題について誌面を割いてみた。
行政、政治への信頼をめざす条例を施行
⋯犬山市長の記者会見
3年前の新聞記事であるが、当時の愛知県犬山市(人口約7万人)の山田拓郎市長(在職2014─2022年)は、市民との共有の知的資源である公文書の管理の仕組みに関して、「内規では仕組みとして脆弱であり、時の為政者や市の都合で何とでもできてしまう。条例化は行政、政治への信頼に結び付く」(中日新聞2021年1月9日付)と公文書管理条例の狙いを説明した。そして山田市長は「行政、政治への信頼に」をスローガンに愛知県内初となる公文書管理の条例化を地元紙から力強く訴え、2021年4月1日に施行した。新たな条例化のニュースはメディアに取り挙げられやすい話題であり、愛知県初となればなおさらだ。
その予想される効果は、1.議会の議決を経る「条例」という形を採用し、附属機関による監視の目を取り入れることにより、公正なルールづくりと運用が担保される。2.条例の制定により、「市民共有の知的資源」として公文書の適切な保存・利用を一層図ることができる。3.市がその諸活動を現在及び将来の市民に説明する責務を全うでき、市民の市政に関する「知る権利」が尊重されることとなり、市政運営の検証の機会が保障される。市長は2021年1月、これら3項目を条例化の前に会見で説明した。
同市において、この条例を後押したのが持続可能な街をめざす「協働のまちづくり基本条例」(2019年7月制定)ではないか。これは自治基本条例に相当するもので、『自治基本条例のつくり方』の著者松下啓一氏によれば、「住民を幸せにするツール」であるという。そして、住民が自治の主体として位置づけられ、自治の基本理念が書かれ、役所や議会が自治のために努力する規定が定められている。つまり、まちを元気にするための理念や制度・仕組みを規定したものだ。
同市では条例名に「協働」を入れたのは市民、議会、行政による三位一体によることを表し、その中で5つの原則のトップに挙げられているのが「情報共有の原則」である。市民、議会、行政はまちづくりに関する情報を互いに提供し、共有することとしている。ちなみに、他の原則は「市民参加」、「協働」、「平等」、「信頼」である。互いに尊重し合い、常に信頼関係を築くために、この条例を支えるには情報公開、公文書管理が共に条例化されることになったのは、まさに持続可能な市政運営をめざすからだ。
それから3年、同市のホームページで歴史的公文書の基準、現用公文書及び廃棄目録、公文書管理の現状報告などを公開している。そして条例施行後の歴史的公文書は約2千冊と報告されている。同市には文化史料館(城とまちミュージアム・IMASEN犬山からくりミュージアム 玉屋庄兵衛工房)があり、ここでは犬山市に関する資料も収集し、保管している。公文書館は未設置であるが、調査・研究などのためにここを利用することが可能だという。
公文書管理条例が施行の自治体を調べてみると、2024年3月までに全国64の都道府県、指定都市、市区町村(指定都市を除く)※1となっている。だがこの条例が制定されても、保存期間満了の公文書から評価・選別された歴史的公文書を保存・公開する施設としての公文書館設置は、思ったほど進んでいない。庁舎内文書庫や借用倉庫保管に頼らざるを得なく、非効率な公開は避けられない。
※1 http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/019_offi cialdocumentmanagement.htm 地方自治研究機構
一方、自治基本条例はすでに全国409の市区町村(2024年4月)に制定されている※2が、併せて公文書管理条例を制定している自治体は少ない。たとえば神奈川県では平塚市、大和市、海老名市、厚木市など11市町に自治基本条例が施行され、住民との情報の共有や管理方法などの条文を見ることができる。したがって、それを支える公文書管理の条例化は自治基本条例が施行しているのであれば実現しやすいと言えるだろう。
※2 https://koukyou-seisaku.com/policy3.html NPO法人公共政策研究所
公文書がないので検証できない疑惑の事案か
ら始まった検討⋯小田原市長の記者会見
前述の犬山市長の会見は市民との信頼を高め、期待感のある取り組み姿勢が覗えるが、それとは逆に、記録がないので検証できない不祥事を振り返り、公文書管理の条例化をめざす市長がいる。その会見を以下に紹介する。
小田原市(人口18万5千人)加藤憲一市長は2024年10月の定例会見で、「庁内で決裁や情報共有の仕組みがきちんとしていなかった。文書を残さず事務処理していたことも問題だった」との認識を示し、その上で「清閑亭(市内にある歴史文化的な建造物)に限ったことではなく、市の組織体質に問題がある。事務執行の基本を全庁的に確認する。公文書管理については条例化を検討し、手続きをより厳格にしていく」と述べた。(朝日新聞デジタル地域版10月4日付)
「清閑亭」を巡る出来事を詳しく話すと、この建造物は1906年に建てられた政治家・侯爵黒田長成(1867─1939)の別邸で、今では歴史的な建造物として国の登録有形文化財となっている。この厨房の増築などについて疑惑が生じ、住民監査請求が出されたのは、この民間活用方法について公平性を欠くとした市民団体からだった。そして小田原市監査委員会は再調査するように勧告した。(神奈川新聞2024年7月3日付)
それによると、業者を公募した際は増築はできないと説明していたが、業者が決まってからは、厨房増築が実現するよう担当部署が動き、文化庁から史跡の現状変更の許可を得たという(同紙同日付)。
監査委員会は再調査するように勧告したが、特筆すべきは、市職員と業者との協議内容の一部の重要な記録が全く残っていないことだった。これらは前守屋輝彦市長時代の一連の出来事であるが、その他在任中に新設した政策監の公務などを知る記録もなかったというお粗末な文書管理も露呈した。巷に伝わる噂では、副市長は市長の「お友達」だという。無駄な税金を払わされた市民にとっても迷惑な話だ。
そして詳しくは加藤市長のこの発言だ。「職員の知識、理解の不足し、事務決裁の手続きの不備によって職員間で情報共有ができなかった」(神奈川新聞10月4日付)は、自治体の仕事が文書主義で行われることを職員が理解していないことが浮き彫りになっただけでなく、ガバナンスの欠如を露呈した。
したがって、公文書の検証可能の可否よりも、公文書の定義を職員が理解していないだけでなく、職員研修の不徹底もあったのではないだろうか。公文書管理の条例化の前に、現状の公文書管理を総点検するなどまずは現状の洗い出しが欠かせない。2011年の公文書管理法施行から10年以上経過しているのに、残念ながら自前の公文書管理について見直しせずにこれまで来たのかと想像する。
同市の文書管理規程を見ると、総務部総務課長が文書主管課長を兼務し、各課には文書主任、文書整理員を置くことになっている。文書には保管と保存の2種類があり、どのように使い分けているかは不明である。また廃棄については文書主管課長と主管課の判断で決定されるので同課長の知識と経験に左右されることになる。したがって、公文書を将来の職員や市の利用を考えた規則ではない。これは職員のための都合の良い文書規定であり、市民目線では書かれていないことは明白である。
もっと大事なことがこの規程には見当たらなかった。それは公文書の定義である。公文書とは「職員が職務上作成・取得したもの、組織的に用いるもの、その機関が保有しているもの」であり、特に近年は、「行政機関の職員は、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない」(公文書管理法第4条)という条文を文書規定とは別に職員に具体的に告知している自治体も最近では散見される。
今回、加藤市長は公文書管理条例化への大きな一歩を踏み出したが、条例化が目的ではなく、規律ある職員づくりをめざす施策の一つがこの条例化であることを肝に銘じてもらいたい。
思い起こせば、前守屋市長は在任中に文書管理システム導入を推進したが、それはアプリをパソコンに導入するような感覚で、公文書管理の理念を職員に再認識させる取組みも怠ってしまったようだ。今後は市民の視点で条例化の説明を広報紙でPRすることも大切であるが、市長の諮問に対して、検討委員会をまずは立ち上げ、答申案を作成することだ。今後の進捗を見守りたい。
最後に記したいことを以下に記す。規律ある職員育成をめざすために、2023年度から3年間にわたる「小田原市職員コンプライアンス推進計画」の指針を策定した。その基本方針の一つに「常に適正な業務と的確なチェックが行われる組織体制を確立します」とあるが、今回の不祥事を振り返ると、職場において職員が持つべき意識が醸成されなかったようだ。
公文書管理の大改革が始まった
⋯厚木市の取り組み
拙著『公文書館紀行 第二弾』(2019年刊)で厚木市のことを取り上げた理由は、2017年に「あつぎ郷土博物館」(2019年開館 旧厚木市郷土資料館)に公文書館機能の導入を厚木市に投書したことがきっかけだった。回答は「本市において重要な課題で今後検討したい」というものだった。その頃、議会でもある議員が行政文書の保存の改善と併せて公文書館設置の質問をしていた。
2018年8月には厚木市ホームページで「公文書管理条例の制定に向けた検討について」が掲載された。言い換えれば、公文書管理条例化への準備宣言とも言える。それを後押ししたのは2010年12月に施行された厚木市自治基本条例であろう。これは前文にある文言を借りると「活力に満ちた心豊かに暮らせる自立したまち」をつくる条例であり、自治の基本原則の中で、「市民、議会、市長、執行機関がそれぞれ的確な情報を公開・提供し、お互いに情報を共有することが不可欠である」としている。「情報の共有」とは「まちづくりにかかわる情報が貴重な共有財産であることを認識すること」、「保有する情報を分かりやすく公表し、情報の共有を図ること」とし、まちづくりに欠かせない情報(公文書)は議会・市長だけでなく、市民のものであることが理解できる。だからこそ、公文書の作成から保存・廃棄、歴史的公文書までマネジメントする制度的な仕組みが必要になる。ここに自治基本法を支援する公文書管理が規則でなく、条例化とする意義がある。

2021年4月、前述のいわゆる「準備宣言」より10年前の2008年に施行された「厚木市の積極的な情報公開を推進するための行政文書作成指針」を改めて公開した。市民との協働を推進するために必要な情報を積極的に公開することを基盤として、その趣旨は「本市の徹底した情報公開の推進を目指し、市政に対する市民の信頼確保と市民への説明責任を果たすため、行政文書の確実な作成と適切な保存管理について示したもの」とあり、市民目線で条例化に向けたステップを踏み始めた。
この中で、「意思形成過程文書を確実に作成すること」は、後に検証可能な行政活動の足跡を検証可能な状況にしておくことである。また「会議録等を作成すること」は市民生活に重大な影響を与える内容が検討された会議などに限定しているが、会議録作成の義務化と作成上のルールも明記されている。個人的な個人的な会議メモを組織共用文書として会議録の完成まで適正に管理しなければならないと定めている。
これらの指針は、公文書管理法の条文を理解し、ガイドラインなどによって厚木市では早くに導入し、この方針を職員へ公文書管理の理念の周知と条例化の準備とした。
2024年5月、「厚木市公文書等の管理に関する条例の制定に向けた考え方について」を公表し、その制定の目的を「市長等と議会が保有する行政文書について、市民共有の知的資源としての利用及び保存を行うに当たっては、市全体のルール(条例)づくりを議会の議決を経て進めることが必要であると考えます」とした。そして「市民に説明する責務の達成」、「市政の適正かつ効率的な運用の確保」に照準を合わしている。
同年8月6日、条例の制定等に係る意見交換会が開催された。市民から「なぜ今なのか」の質問に、「市政施行70年の歴史を積み重ねてきた本市の歴史的価値のある行政文書を条例でしっかり保存・管理し、時には、新しい施策や事業のための参考資料として有効活用を図ること、こうしたことが目指すべき姿であるとの結論に至り、条例制定をすることになった」と明確に答えた。そうであれば、公文書館機能を備えて対応することもできるが、中途半端な施策よりも、今から歴史的公文書の保存・活用できる施設の検討も併せて進めなければならない。
条例の施行は2026年4月の予定であるが、職員にとっても今から意識すべき公文書管理の大きな改革である。保存期限の永年を廃止し30年保存への変更、外部倉庫に保管を含め数千の文書箱の整理と歴史的公文書の選別、歴史公文書の保存・公開、電子化の推進などがテーマになるだろう。
取り組む課題は、今回の条例化だけではなく、2027年春に完成の新庁舎への移転も視野にある。新しいオフィスのレイアウトづくりなど移転前の準備に条例化が欠かせない。ちなみに30%の文書量削減が目標だという。その理由は、移転に伴う文書整理においては、条例に沿った文書管理ルールで実行しなければならないからだ。以前、ある自治体で聞いた話だが、庁舎移転前に必要な文書をどこに収容したか、未だにわからない部署の話の話を思い出し、移転直前に点検もせずに廃棄される事態だけは避けたい。
市民への説明も大事だが、職員の理解と協力なくして条例化は実現できない。身近に取り組むべき課題は、今から職場の文書管理の点検や公文書の保管状況などの調査にも着手すべきかもしれない。年明けの2025年2月には条例案を市議会に提案予定であるという。これまで、他の自治体への視察やこのような準備を進めてきたのは行政総務課の職員の方々だと聞いた。今後の動向に注目し、実現できることを念じている。


