ゲームを遊ぶために、ゲームを残すために ~ゲーム保存協会の役割と活動~

ゲーム保存協会 副理事長 福田 卓也
ゲーム保存協会の設立と経緯
特定非営利活動法人(以下NPO)ゲーム保存協会は、日本国内で発売、発表された電子ゲームとその関連資料を保存する国内初のNPO団体として2011年9月9日に設立されました。
“100年先の未来へ遺すため”をキャッチフレーズとして活動を開始し、設立当初は正会員15名のみでしたが、現在は正会員31名、個人会員416名、法人会員/協賛企業11社、名誉会員7名という規模まで成長しています(2023年4月時点)。
2023年となった現在は日本の省庁をはじめ、多くの企業や図書館、美術館などがゲームを文化やアートとして評価し収蔵や研究を行っていますが、NPO設立当初は活動の理解をいただくことが困難な時代でした。
このような歴史は何もゲームに限ったものではなく、過去には小説、映画、漫画などのメディア、アートも同じような歴史を辿っています。
その象徴となるようなものの一つが浮世絵でしょうか。
ご存知の通り、浮世絵は今で言うところの広告チラシのようなものでした。そのためさまざまな工芸品が海外へ輸出されるようになると、その緩衝材として用いられ工芸品とともに海外へ輸送されました。
これらは場合によって工芸品以上に興味、価値を認められることとなり、海外主体で浮世絵は保存されました。遅きに失した国内の評価のため、国内での多くの美術館展示や収蔵は、海外からのレンタルであったり、再購入する状況となってしまっています。
ゲームを取り巻く状況も同じような経過を辿っています。海外の美術館や博物館、ゲームを専門としたアーカイブ施設は早くから日本のゲーム収集を行っています。また昨今のブームにより多くの国内ゲームは海外流出をしています。
自分たちにとって宝物であったゲームが同じような歴史を辿ってしまう未来をなんとか防ぎたいという有志が集まって、ゲームアーカイブを設立させる団体として発足しました。ゲーム保存協会の活動についてご説明します。NPOの事業として以下の3事業を定めています。
1.研究事業
電子ゲーム及びその関連機器・資料等の保存技術・方法等に関する研究・開発
2.啓発事業
電子ゲーム及びその関連機器・資料等の保存技術・方法等の普及・啓発に関する事業
3.連携事業
電子ゲーム等の普及を目的とするアーキビスト等との連携及びその支援に関する事業
先にも書きましたが、ゲーム保存協会はゲームアーカイブを構築することを目的に活動しています。
そのためすべてのゲーム、資料を公正かつフラットに扱い、可能な限り保存を行いつつ、関連機器や資料に対する保存技術・保存方法について研究開発を行っています。その結果はオープンソースとして一般に公開しています。このような開発などの連携は海外を含めた多くのアーキビスト、企業、団体との間で行っています。
よく間違われることですが、ゲーム保存協会自体は寄贈いただいた資料以外にはゲーム資料を収集することは事業に含まれません。
ゲーム保存協会で扱っている資料はメンバーなどの個人が所有するものであり、発表、発売されたゲームそのものを入手することは行っておらず、アーカイブに登録される資料は活動趣旨に賛同したコレクターのネットワーク、ボランティアによるものです。それらの資料を連携して管理を行い、情報としてのアーカイブを作成するために活動しています。
保存するための3つの活動
では実際に行っている新しい保存技術、保存方法とはどのようなものなのかということについて解説します。
ゲームという資料を保存するためにPreservation、Conservation、Migrationの3つの活動を行っています。
Preservationとは文字通り「保存」です。化学的、物理的な劣化を最小限にとどめ、内容情報の損失を防ぐように保存する活動です。
そのために保護ケースなどの開発を行いました。本部にある資料は保護ケースに保管した上で、温度、湿度管理を行い暗室で保存を行っています。資料には管理番号を付与して管理しており、必要な際にはそこから資料を辿ることが可能です。
更にどのような資料が存在するかを調査するための大規模なデータベース作成も重要な保存の活動です。

Conservationとは「保全」です。劣化の進行した資料への処置、劣化に対する予防的ケアや動作環境を維持するための修復に対する活動です。
フロッピーディスクの表面に発生したカビ、汚れなどを、どのように除去すれば劣化から防ぐことができるのか、実機の劣化、故障に対しての情報を収集し、その対策や修理方法などのノウハウ構築を研究、公開しています。
Migrationとは「移行」です。上記のような作業を行っても、カセットテープやフロッピーディスクなど、どのような媒体も必ず劣化消滅します。その前に媒体の移行を行うことで情報としての保存を行うことです。
現在行っているものは、デジタル化を行うことであり、劣化消滅が間近に迫っているとされる磁気媒体や販売されたパッケージのスキャンなどのデジタルイメージ化を中心に行っています。そのための技術、デバイスの研究、開発も重要な活動です。
マイグレーションの方法
Migration(マイグレーション)について説明します。
デジタル化にはいくつかの粒度がありますが、ゲーム保存協会は可能な限りすべての情報をデジタルマイグレーションしています。
特にカセットテープやフロッピーディスクのような磁気メディアは、情報をアナログ保存しているメディアなので、そのデジタル化には専用の機器、アプリケーションの開発が必要でした。
しかし単純にそのようなデバイスを使って、次々にデータ保存すればよいという訳ではありません。
フロッピーディスクを元にどのように保存しているか説明いたします。

まず、フロッピーディスクをドライブに入れる前に、マイグレーション用の機器のテストとキャリブレーションを行います。これにパスしたドライブ、デバイスだけを使用します。
目的とするディスクは挿入前に外観から判別可能な情報を収集します。対応機種、フォーマット、ディスクの番号、動作環境などです。またプロテクトのため、インデックスホールが複数存在していたり、ディスク表面をわざと傷つけてある、穴を開けてあるといったディスクも存在します。
これらは目視でしか確認できないため、事前に必須な情報として収集します。
次に物理的な損傷の有無などを確認します。折れ曲がり、表面の傷、カビや汚れの有無を確認し、どのような小さなものでも発見した場合は対応します。
カビや汚れであればイソプロパノールや精製水による除去、洗浄を行い、傷ではシクロメチコンなどを利用してコーティングを再生するなどします。
ジャケットと呼ばれる磁性体の円盤を包んでいるカバーが変形したり、摩擦などでうまく回転しない場合はこれらを切開したり破壊したりして、交換することが必要な場合もあります。
このような作業で物理破損が修復されたディスクとなって初めてデジタル化を行います。
現在、ゲーム保存協会ではPauline(ポリーヌ)というフロッピーディスクのイメージ化に特化したデバイスと、そのデータを確認するためにHxC Floppy Emulator Softwareを利用しています。


使用方法の詳細は省きますが、これらはいずれもオープンソースで公開されており、デバイスの作成、改良など自由に行えます。
PaulineはWebベースのインターフェースを持っているので、一般的なPCであれば利用可能ですし、スマートフォンのようなデバイスからでもイメージ化は可能です。
5.25インチのフロッピーディスク1枚を読み込むのにおおよそ3分程度の時間を要し、ファイルサイズとしてはおおよそ2Dのもので40Mbyte程度になります。

このデータが実際どのように保存されたかはソフトウェアを使用して確認します。物理破損がないディスクであっても磁気情報が破損することは多いにあり得ます。破損が疑われる場合は再度物理的なチェック、マイグレーションを行いますが、既に破損しているディスクも存在しています。
また一見するとデータ異常のようなディスクであっても、プロテクトとしての特殊フォーマットである可能性もあり、これらは専門の知識を持ったメンバーによって確認を行います。
読み込んだディスクは、管理番号を添付して、専用の保存ケースなど収納、湿度、温度を保った環境で保存します。
マイグレーションしたデータはまず画像イメージとしてフォーマット情報などを記録します。画像として可視化されることで容易に一般的なフォーマットであるか、データがどこに存在しているか、他のディスクとの大きな違いがあるかなど、比較が可能です。
詳細なフォーマット情報は別で解析を行い記録します。発売時期などによってフォーマットやデータが異なる所謂バージョン違いがゲームには多く存在するので、データとしても比較を行って情報を収集します。
このデータはプロテクトなどを含めた詳細なフォーマット情報のため、現在一般に公開されているPC上のエミュレータなどでそのまま利用することは困難です。
一部機種に対してはメンバーにエミュレータ開発者が存在するため、プロテクトを含めたエミュレーター動作が可能となっていますが現在は開発段階です。そのためイメージの利用としては、フロッピーディスクドライブをエミュレートする機器を利用して実機での動作を確認することになります。
前述したPaulineは読み出し機能以外にもドライブのエミュレーションが可能であり、そのまま過去のPCに接続することで実機での利用が可能です。
フロッピーディスクのデジタル化について説明しましたが、パッケージや媒体そのものをスキャンしてデジタル画像としても保存しています。
特に紙パッケージの場合は製函された状態で販売されていますので、製函前の状態まで分解してスキャンを行います。糊付けされたパッケージのため、適切に加熱しつつ分解し、製函によって付けられた折り目などを完全に伸ばし、その状態まで復元したところで管理番号を貼付して管理を行います。

パッケージのデジタルスキャンを行った後、必要であれば修復なども加えてイメージを保存します。さらにサイズ、厚さ、重量を測定し記録します。
スキャンしたデータは協会のHP上にはゲームカタログとして文化庁のルールに則った解像度で掲載を行い、サムネイル画像として公開しています。

保存活動の課題
フロッピーディスクやパッケージのマイグレーション方法を紹介しましたが、なぜこのような情報まで保存しているのかというと、アーカイブという目的である以上、どのような情報が将来必要になるのか今の私達には決定できないためです。現在可能な限りの適切な方法で作業を行っています。
膨大なタイトル数となった国内のゲームアーカイブを構築すべく活動していますが、これまでも、これからも多くの問題を抱えています。
「ゲーム保存協会にゲーム保存を行って良いという許諾を行った覚えはない」と言われたこともあります。これらはひとえに日本という文化のなかでは、アーカイブということの意味が浸透していないためでしょう。
アーカイブは知の集合として開かれたものであるべきですが、そのための情報の収集や情報の利活用については著作権など権利の問題が存在します。私達は誰もが自由にゲームという情報にアクセスできるようにしたいと考えています。
保存されたゲームを自由に遊んだり、情報をコピーしたりできる環境を構築することは、アーカイブの一つの利用方法に過ぎません。一般の図書館のような役割はアーカイブ機能の一部ですし、現在は著作権の問題もあり不可能です。これらの著作権に対する問題については我々のNPOだけでは解決することは困難ですし、ゲームというジャンルのみに規定される問題でもないと考えます。
パッケージのサムネイル画像の公開などのように文化庁が定めたルールが存在し、このような公的な機関からの利用方法の指針が制定されるように働きかけを行っています。
令和3年の国立国会図書館の権利制限規定の拡大、令和4年の博物館法の改正などを国内の多くのアーカイブ機関に適応されるように改定していただきたいと考えております。
また権利者だけではなく、実際の消費者側にもゲームは遊ぶものという認識が強いためか、誰でも気軽には遊べない形で資料をアーカイブしているということに活動内容の理解がなされないというジレンマは未だに多く存在します。
NPOという立場ですので、ボランティアや寄付をベースに活動しています。協力や理解いただくことが難しい中、特に金銭面や場所、人材といったリソースが圧倒的に不足しており、活動の大きな妨げになっています。
更に昨今のゲームを取り巻く問題として、ゲームが発表される媒体の変化や販売方法の変化です。
オンラインゲームやダウンロードゲームが多く発売されますが、これらは企業の協力なしに保存することは不可能です。スタンドアロンではプレイすることの出来ないようなゲームはサーバー環境を含めて保存が必要ですが、これには多くの障壁があることは容易に想像できると思われます。iモードに代表されるような国内を中心に普及した携帯電話を利用したゲーム、オンライン販売のみであったゲームなどは残念ながら、既にかなりのタイトルが消失してしまいました。
プレイ環境が現在提供されていたとしても、サービスの提供終了、ダウンロード販売の停止によりプレイや入手が不可能なものも多く存在します。
どのようなゲームが存在するかという情報も過去には雑誌や広告資料などがあったため、これらを収蔵すれば把握することは可能でしたが、現在はそのような媒体も減少しており、困難な時代になってきています。
アーカイブの重要性
これらの情報がどのように利活用されていくのかについてです。
書籍や音楽の復刻、再販が多くなされているように、ゲームも近年ではこのような発表が見られるようになってきました。私達のアーカイブもそのような事業に活用されることが複数あります。ハル研究所より発売されたPC-8001miniに搭載されているいくつかのゲームのオリジナルは保存協会より情報提供を行ったものです。
復刻の多くはエミュレータ上での動作であることが多いですが、オリジナルの動作を確認することが、エミュレータとしての再現度の比較には必須でしょう。このため媒体のMigration(マイグレーション)のみを行っても、利活用に役立てるアーカイブとはならず、Preservation、Conservationにて動作可能な環境を保存することも必須の活動です。
アーカイブが正しく構築されていれば、将来に渡って同じ体験が可能となる機会を作れます。古い作品に価値がないと思う方はいないでしょう。現代でも子どもたちは昔話を絵本として読み、バッハをピアノの練習で演奏し、黒澤明監督の作品に感動します。面白かったゲームはいつ遊んでも面白いです。アーカイブは普遍的価値を将来へ遺すことが可能です。
そしてアーカイブは将来に於いてゲームの研究を行う際に必須の情報源となるでしょう。一次情報のみならず、二次情報としてゲームクリエイターの方々へのインタビュー活動なども行っています。それらは当時の歴史資料として重要であるとともに、新しいゲームの開発にもヒントとなるような形として利用されるはずです。
既に一部では多くの誤情報が含まれる書籍などが発売されています。これらに対しても同様にアーカイブを行います。間違っていても正しくても全ての情報をフラットに扱い、保存していくというのが、将来の研究に必要です。そしてなぜ間違っている情報がそれほどまでに広がったのかといった研究も、アーカイブがなければ困難でしょう。
ゲームに限らず意図的にアーカイブを形成しないと消費されるだけで未来に遺すことのできないメディア、産業は多く存在します。
制作、消費されていくものが、未来にどのように評価されるのかは、今の私達には決定できません。
アーカイブとして遺すということの意味や重要性が、ゲームを遊ぶ傍らに思い出していただければ幸いです。
(2023年7・8月号再掲)



