いつまで、保管スペースの制約から文書の廃棄判断を続けるのですか?

~令和5年5月25日「裁判所の記録の保存・廃棄の在り方に関する調査報告書」発表~

 神戸連続児童殺傷事件などの重要裁判記録の廃棄が相次いで露呈したことから、最高裁判所事務総局は「事件記録の保存・廃棄の在り方に関する有識者委員会」を開催し、有識者委員の意見を踏まえて調査・検討を行い、令和5年5月25日「裁判所の記録の保存・廃棄の在り方に関する調査報告書」を公表しました。

 その中で、最高裁の不適当な対応として「保存記録の膨大化の防止に取り 組むべきとの強いメッセージを発出したこと」が指摘されている。これが「保存期間満了後の記録は原則廃棄の考え方、 特別保存への消極姿勢が組織内で醸成・定着させてしまった。」と反省事項が挙げられている。

 平たく言えば、保管スペースがないから余程のことがない限り、法定保存期間さえ満了すれば捨てなさいと勧告していたことになります。

■デジタル時代のパラダイムシフト

(1)紙がベースの時代

 紙を記録媒体とした場合にはスペースを取ることから、保管期間、廃棄基準、保管延長などの判断において、実際にはスペースコストに見合うだけの価値があるか? という観点が重要視されてきたと思います。実際、コストを考えた場合には、選択肢は他になかったようにも思います。

 そのため、オフィス文書の類では「迷ったら捨てる」が良いとされてきました。そもそもオフィス文書の類には、長期レンジで見た場合に価値が高いものが少なかったから成立していたことかも知れません。一方、裁判記録や行政文記録、研究記録、開発記録などは、そもそもがそれぞれある程度の価値をもっており、廃棄判断は難易度が高いものなのではないでしょうか。

 今回の調査報告書で、記録廃棄の基準作りに「常設の第三者委員会」が必要との提言があることからも読み取れます。このような類の記録に対する廃棄基準は、「迷ったら捨てる」のままでいいのでしょうか。

(2)デジタル時代

 昨今のデジタル記録では紙保管に比べ、ビットコスト、スペースコストが圧倒的に低くなっています。スペースについては、クラウドサービスの発達、データセンター利便性の高まりで、自組織内のスペースを利用する必要すらなくなっています。

 そこで、発想の転換をしてはどうでしょうか。廃棄してしまうと未来永劫使えなくなります。
 誰にとっても未来のことまで予測するのは難しいことです。また、その判断のために費やす時間も多大、かつ高度な人材を必要とします。
 そのため、デジタルにおいては廃棄判断基準では「迷ったら残す」に切り替えてはどうでしょうか。

(3)端境期を乗り切る

 そうは言っても、現実には10年前や20年前の紙文書が山のようにあります。だからと言って、価値の高い裁判記録、行政文書、研究記録、開発記録などについては「迷ったら捨てる」は乱暴でありますが、紙のままで残すということになると負担が大き過ぎます。スキャニングして、電子化文書として残してよいものは「迷ったら残す」でどうでしょうか。

 スキャニングコストを掛けるまでに価値がないものは、捨てることにはなりますが。

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